宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 13, 2022

シンポジウム 3

月社会における医学・ライフサイエンス分野の取り組み

Moon Village活動と医学・ライフサイエンス分野の取り組みの現状

泉 龍太郎

日本大学

Medical and Life Science Activities in Moon Village;Future Plan for Human Space Development

Ryutaro Izumi

Nihon University

2019年8月より,JAXA宇宙科学研究所等が中心となり,月惑星に社会を作るための勉強会(略称:Moon Village勉強会)1)が定期的に開催されている。この勉強会では,将来,月惑星に数百〜数千人規模の社会が構成された時のレファレンスとなるモデルを構築することを目的とし,理工学系のみならず,社会制度,経済,人文科学等,様々な角度から議論が行われている。本発表では,その中で,医学・ライフサイエンス分野の取り組みについて紹介した。1961年にソ連(当時)のガガーリンが人類初の有人宇宙飛行を行ってから,既に500名以上が有人宇宙活動を経験し,ヒトの宇宙滞在に伴う医学的な課題に関しても,かなりの知見が集められている。その代表的なものはNASAでまとめられているHuman Research Roadmap(HRR)2)であるが,JAXAからも将来有人宇宙活動に向けた宇宙医学/健康管理技術に関するギャップ3)がまとめられている。医学・ライフサイエンス分野の技術革新は早く,遠い将来の技術予測を行うことは難しいが,50〜100年程度の将来を見据え,上記のHRRやJAXAの技術ギャップを踏まえて,月惑星社会における医学的な課題とその対策について,提案を行いたいと考えている。その際,中心的な課題となるのは @ 宇宙放射線,A 低重力の影響,B 精神心理,および C 月面ダスト(=レゴリス)と考えられるが,今回,これらの課題の中で,@ についてはJAXA永松先生,A については日本大学の倉住先生ら,B については筑波大社会医学系の笹原先生ら,に報告をお願いした。医療・ライフサイエンス分野の技術予測に関しては,人工知能(=AI),ロボティクス,生体計測機器類の小型化・高機能化,遺伝子工学,生体材料を含む材料工学等の流れを踏まえる必要がある。本分野の検討においては,単に医学的な課題の検討に止まらず,このような人類の宇宙進出に関し,人類,あるいは生命進化の観点からの考察も行いたい。更に,将来の予測を行うことの意義についても,議論を深めたいと考えている。

1) 月惑星に社会を作るための勉強会.
http://www.jasma.info/moonvillagestudy/
(2021年10月23日参照)

2) Human Research Roadmap. 
https://humanresearchroadmap.nasa.gov/
(2021年10月23日参照)

3) JAXA将来有人宇宙活動に向けた研究開発.
https://humans-in-space.jaxa.jp/biz-lab/med-in-space/med/planetary-exploration/
(2021年10月23日参照)