宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 5, 2022

特別講演

有人宇宙活動

土井 隆雄

京都大学

Human Space Activities

Takao Doi

Kyoto University

1961年ガガーリンによる人類初の有人宇宙飛行以来,宇宙は人類にとっての進出可能な新世界となった。日本の『第一期有人宇宙活動』は,1985年に国際宇宙ステーション計画への参加決定及び第一次材料実験に参加する日本人宇宙飛行士の選抜により始まった。日本は短期有人宇宙ミッションを通じて,宇宙実験技術,ロボットアーム操作技術,船外活動技術など有人宇宙活動に必須な技術を獲得した。『第二期有人宇宙活動』は,2008年「きぼう」日本実験棟を宇宙ステーションに取り付けるミッションを契機に始まった。これより日本人宇宙飛行士による長期ミッションが開始され,宇宙飛行士訓練技術,有人宇宙施設の運用,長期宇宙実験の実施,宇宙貨物船の運用などの技術を獲得した。今,人類の宇宙展開は何をめざし,私たちはどこに行こうとしているのだろうか。
 有人宇宙活動は,いろいろな特徴がある。ここでは,次の3つの特徴を考えてみよう。第1の特徴は,有人宇宙活動は最新の科学技術を使うことである。これは,宇宙の真空無重力環境で人間が生きるために必須の条件である。第2の特徴は,有人宇宙活動は社会的連携活動であるということ,すなわち,国際協力によって国際宇宙ステーションが造られたのが良い例である。第3の特徴は,宇宙飛行士が宇宙で命を懸けることで,国民の高い関心を呼ぶ活動でもある。このような有人宇宙活動に多くの若い人たちが参加することによって,宇宙開発が活性化され,宇宙産業が多様化し,そして拡大していくことになる。有人宇宙活動は,地球社会を宇宙に広げる,いわば,宇宙社会に変える可能性があるのである。
 ガガーリンが宇宙に飛び出して行った時,彼は「人間が宇宙で生き延びることができるのか」知らなかった。それから60年が経過し,私たちは「人間が宇宙で生き延びることができる」ことを知っている。人間は宇宙でも地上と同じように「水を飲むことができ,食べ物を摂ることができる。」目も耳の鼻も地上と同じように働く。もちろん,脳の働きも変わらない。人間は,宇宙でも生きられるように作られているのである。これは,非常に不思議なことである。地球の生命体は地球が生まれて46億年の間進化してきたのだが,その中で一度も無重力を体験したことはなかったはずである。それにも関わらず,私たちの体は宇宙で生きられる。これは,地球から私たちへの贈り物であると感じる。
 宇宙から地球を眺めると,地球は海の青さと雲の白さに燦然で輝く美しい惑星である。地球を見つめているととても暖かい感じを受ける。眼下を過ぎるサンゴ礁に囲まれた島々や,雪を抱く山々がすばらしい景観を形作り,時間が経つのも忘れてしまう。しかし,夜になり太陽が地球の陰に隠れてしまうと,突然,とても心細く感じる。太陽は父であり,地球は母であるという言葉が浮かぶ。この美しい地球をいつまでも美しいままで保たなければいけないと強く感じるのだ。