宇宙航空環境医学 Vol. 58, No. 2, 132, 2021

ニュースレター

5.  第66回大会関連
第66回大会に参加して

江川 達郎

京都大学大学院人間・環境学研究科 助教

 この度は,このような寄稿の機会を設けてくださいましたこと,大会関係者の皆様に感謝いたします。第66回大会は地元の京都で開催されるということもあり,参加を楽しみにしていました。残念ながら誌上開催となってしまいましたが,中止ではなく誌上開催という形で開催していただいたことは,私たち若手にとって宇宙を学ぶ貴重な機会を得られたという点で大変意義のあるものであったと感じています。
 私は骨格筋生物学を専門としており,特に微小重力環境,運動,栄養,老化といった因子によって起きる骨格筋適応現象の解明を進めています。最近では,生体内で起こる糖化反応に着目しており,微小重力による骨格筋萎縮の進行には,糖化反応が関与していることを明らかにしています。本大会では,微小重力による筋萎縮と老化による筋萎縮における糖化ストレス応答の差異を比較検討した成果を発表しました。本研究成果では,老化による筋萎縮と比較して,微小重力環境暴露による筋萎縮では糖化がより深く関与していることが示され,本研究成果をもとに,糖化抑制をターゲットとした廃用性筋萎縮の防止策の構築を目指した研究を進めていきたいと考えています。
 誌上開催での学会参加は今回が初めてでしたが,開催(学会誌送付)前はどれほどの意義があるのか正直わかっていませんでした。ただ学会誌を読ませていただいた現在は,参加して良かったというのが率直な感想です。例年の学会大会では抄録が記録として残るだけであり,発表を聞くことができなかった場合,その内容を十分に把握することができませんでした。しかし今回の誌上開催では,短いながら論文形式での発表となっており,例年に比べて情報量も多く内容が理解しやすくなっています。確かに,直接の意見交換はできませんが,後ほどメールなどで疑問点は聞くことは可能ですし,演者の方が話した内容を巻き戻すことができないよりも,何度も読み返すことができる方が,メモを取るのが苦手な私にとってはメリットに感じました。
 本大会のテーマは「月に住む-月と日本人-」でした。地球上ではまだまだ感染症が収まらない状況を見ると,宇宙長期滞在が実現すれば,地球を放棄して他惑星(月)へ移住するという手段が現実になるのでしょうか。できれば地球と宇宙を行き来する平和的な移住になってほしいものです。そのためにも,まずは感染症が無事に収まり,安心したなかでかつチャレンジ精神を忘れずに研究を進め,夢のある宇宙医学分野に貢献できることを願っています。