宇宙航空環境医学 Vol. 58, No. 2, 129-130, 2021

ニュースレター

4.  研究奨励賞受賞者
研究奨励賞を受賞して

小西 透

日本大学医学部 社会医学系 衛生学分野/防衛省 航空自衛隊 航空医学実験隊付

 この度,「軽度過重力負荷中の動的脳血流自動調節能の経時変化(宇宙航空環境医学56(2); 25-33, 2019)」に対し,日本宇宙航空環境医学会研究奨励賞の栄誉を賜り,第66回日本宇宙航空環境医学会大会(誌上開催)にて受賞講演を行わせていただきました。学会理事長 加地正伸先生,学術論文賞選考委員長 大平充宣先生,第66回大会長 松崎一葉先生をはじめ,関係の諸先生方に心より感謝申し上げます。また,今回ニュースレター執筆の機会をくださった企画委員長 立花正一先生にもお礼申し上げます。
 私は,防衛医科大学校を卒業,航空自衛隊に入隊し,現在も航空自衛隊の医官として勤務している者です。現在は学位取得のための国内留学中であり,日本大学大学院医学研究科で岩阜ォ一教授のご指導の下,宇宙航空環境医学を専攻しております。
 大学院入学前,航空自衛隊ではパイロットの健康管理,疾病罹患時の適性評価,航空生理訓練(低圧,低酸素,高Gといった航空環境への適性・適応についての訓練),航空事故調査等,航空医学の様々な領域に携わる機会がありました。その中でも特に,耐G訓練という,戦闘機パイロットを目指す学生に対する加速度生理学や高Gへの対処法等の教育を担当する部署で勤務した経験が,今回の研究のきっかけとなっています。この航空医学領域の「過重力」についての知見が活かせるよう,過重力負荷が脳循環に及ぼす影響について検討することを大学院での研究テーマとしました。
 宇宙医学領域では,宇宙滞在中もしくは地球帰還後のリハビリテーション時の過重力負荷が,長期宇宙滞在による生理学的変化の予防・軽減手段の1つとして期待されていました。この過重力負荷の臨床応用を見据え,日本大学では,ヒト用遠心人工重力装置を用いて,過重力が人体に及ぼす生理学的な影響について,数多くの研究が行われてきました。私の研究テーマもその1つです。航空医学領域で「過重力」と言えば,戦闘機パイロットには不可避であり,適切に対処しなければ死と隣り合わせである,極めて危険なものという意識でしたので,この宇宙医学領域での過重力負荷を治療に活用するという発想はとても新鮮なものでした。
 実際の研究では,被験者に経頭蓋ドプラ血流計,非観血的連続血圧計,近赤外分光計(NIRS),心電図,カプノメータといった様々な計測機器を装着した状態で人工重力装置に搭乗してもらい,20分間の+1.5 Gz負荷を行い,計測指標の経時変化を評価しました。特に,歯科用印象材を用いて被験者毎に超音波プローブの固定具を作製し,過重力負荷中も一定した角度で超音波プローブを保持する技術に驚嘆しました。また,今回の受賞論文の主眼である「動的脳血流自動調節能」は,動脈圧波形(非観血的連続血圧計)から脳血流速度波形(経頭蓋ドプラ血流計)への伝達の程度を評価したもので,「血圧の変動から脳血流の変動への伝達を抑制し,脳血流変動を小さくすることで脳血流を維持する機能」のことです。それまで「平均血圧が一定範囲内にあれば脳血流は一定に保たれる」という「静的脳血流自動調節能」の概念しか馴染みの無かった私にとって,とても新鮮な概念であり,とても勉強になりました。
 このように,「宇宙医学」についても,「研究」についても初心者であった私にとっては,分からないことだらけであり,周囲に迷惑をかけてばかりいましたが,研究成果を論文として発信することができ,さらには研究奨励賞という栄誉を賜ることができたのは,光栄の極みです。これもひとえに,熱心にご指導くださいました岩阜ォ一教授をはじめ,実験を支えていただいた先生方(小川洋二郎先生,加藤智一先生,田子智晴先生,倉住拓弥先生)のおかげであり,この場をお借りして深謝申し上げます。
 今回の研究成果が少しでも宇宙航空医学の発展に寄与することを願って受賞のご挨拶とさせていただきます。