宇宙航空環境医学 Vol. 58, No. 2, 129, 2021

ニュースレター

4.  研究奨励賞受賞者
研究奨励賞を受賞して

池田 篤史

筑波大学附属病院 泌尿器科

 このたびは研究奨励賞にご選出いただき,大変光栄に存じます。誠にありがとうございました。1956年より始まった日本の南極地域観測活動は,コロナ禍である現在も62次(2020年11月〜)を数えています。すでに,南極観測船「しらせ」乗船前2週間の国内隔離,3回のPCR検査を経て,他国へ寄港することなく昭和基地へ到着しています。
 私自身は,これまで医療隊員に応募していたものの,諸般の事情もあり,未だ南極の経験はありません。しかし,この選抜試験の面接で,南極ではどのような疾患が多いのかを質問されたことをきっかけに,越冬期間中,外部と完全に隔絶された環境下での疾病動向に興味を持ち,受賞論文執筆の機会を得ることができました。越冬が行われていない第2次隊と第6次隊,傷病数の記載がない第1次隊と第24次隊を除く第56次隊までの52回分について,各隊の越冬報告をもとに,その中の医療記録から疾病の病名や分類の統一する作業を行い報告しました。隊員が30名ほどであるひとつの隊では,あまりわからなかった医療受診の傾向が,各隊のデータが集まることで浮き彫りになってくることに興奮したことを覚えています。また,歴代の報告書に目を通す中で,先人たちが限られた物資や人員で,いかに予防衛生教育,健康管理,医学研究に尽力されていたかを垣間見ることができ,益々,南極への興味が呼び起されました。
 今回の論文は,極地の閉鎖環境における日本南極地域観測隊の長期にわたる資料であり,宇宙医学,航空医学,環境医学関連においても貴重な報告であると自負しています。学会員の皆様の南極への好奇心を掻き立て,さらに私と同じように南極を目指す医療関係者の今後来るべき越冬の日々の一助になれば幸いです。
 最後に,これまでの南極地域観測活動にご尽力されたすべての隊員,関係者の方々に感謝申し上げます。特に医師隊員の方々,また,大野義一郎先生,大谷眞二先生,渡邉研太郎先生,伊村智先生の指導に深謝いたします。論文をまとめるにあたり,国立極地研究所の全面的な支援を受けることができました。改めて,この場を借りて心より御礼申し上げます。