宇宙航空環境医学 Vol. 58, No. 1, 42-43, 2021

一般演題 15

宇宙飛行による成体マウスおよびラットの心重量に対する影響

三宅　将生¹，山�普@将生²，勝田　進一郎¹，吉江　進¹，清水　強³，挾間　章博¹

¹福島県立医科大学 ・ 医学部 ・ 細胞統合生理学講座
²株式会社アルファーコーポレーション
³医療法人豊誠会諏訪マタニティークリニック ・ 清水宇宙生理学研究所

Effect on heart weight of adult mouse and rat induced by spaceflight

Masao Miyake¹, Masao Yamasaki², Shin-ichiro Katsuda¹, Susumu Yoshie¹, Tsuyoshi Shimizu³, Akihiro Hazama¹

¹Department of Cellular and Integrative Physiology, Fukushima Medical University School of Medicine
²Alpha Cooperation
³Shimizu Institute of Space Physiology, Suwa Maternity Clinic

はじめに
　我々は以前，ニューロラボ実験にて宇宙飛行が幼若ラットの血圧調節機構に及ぼす影響を解析し発表してきたが^1），その際に得られた各種臓器の重量を比較し，宇宙飛行した幼若ラットでは有意に心臓が小さくなっていることを報告した^2）。しかし，フライト群と地上群との間に大きな体重差が存在したため，体重比では有意に大きくなっていた。そのため宇宙飛行の心重量に与える影響がわかりにくくなっていた。今回，「2019年度「きぼう」利用マウスサンプルシェアテーマ募集」に採択され，マウス心臓サンプルの供与を受けることができたので，まずその重量を測定し，ニューロラボ実験での成体ラットの未発表データとの比較検討を行った。

方法
　既報の通り^3），9週齢のマウスを軌道上の「きぼう」にて30日間飼育し，およそ着陸36時間後に解剖したサンプルを利用した。微小重力（μG）群と軌道上人工重力（A1G）群，地上飼育（GC）群とし，それぞれ半割した心臓の重量を測定した。
　ニューロラボ実験ではRAHFケージを使用し，1ケージあたり幼若ラット8匹と授乳用の雌ラットを搭載し，スペースシャトルにて16日間軌道上に滞在させ，微小重力群とした。同ケージで飼育した地上飼育群とともに，これら授乳用ラットを着陸翌日までに灌流固定して，その心臓全体の湿重量を測定した。なお，本実験は所属期間の動物実験委員会の承認を受けて行われた（福島県立医科大学動物実験委員会，承認番号2019074号）。

結果
　Table 1のとおり，実験期間前後で動物の体重は地上飼育群で増加していたが，微小重力群では減少する例が多くみられ，体重変化では有意差が確認された。この差はマウスでもラットでも同様に見られた。
　ラットの心重量は有意差はないものの（p=0.12），微小重力群で低い傾向にあったが，体重比換算では殆ど差は見られなかった。一方マウスでは地上群に対して微小重力群，人工重力群ともに小さくなっていたが，この2群間での差は認められなかった。

考察
　本研究において宇宙飛行した動物では，体重増加の抑制あるいは体重減少が観察された。また，心重量に対する宇宙飛行の影響もマウスで確認されたが，人工重力の影響は，体重，心重量ともに確認できなかった。一方でラットではこうした影響は認められなかった。この要因として，1）種差，2）滞在期間，3）解剖方法の違いなどが考えられる。特にマウスサンプルの解剖の状況は一様ではなかったため，データの取り扱いには注意する必要があるかもしれない。いずれにしても，体重当たり心重量は人工重力の影響より，飛行経験の有無をより反映していると考えられる。人工重力群においても遠心前後には微小重力環境等を経験しているため，循環動態に影響を及ぼす軌道上での行動解析や，ストレスレベルの測定が有用と思われる。なお，本発表内容に関連し，発表者らに開示すべきCOI関係にある企業等はない。

文献