宇宙航空環境医学 Vol. 58, No. 1, 26-27, 2021

一般演題 7

1時間水中立位安静における尿中カテコールアミンの変化

小野寺 昇1,浮田 優香2,重岡 儀成2,石田 恭生2,和田 拓真1

1川崎医療福祉大学
2川崎医療福祉大学大学院

Changes of urinary catecholamine while standing in water

Takuma Wada1, Yuka Ukida2, Yoshinari Shigeoka2, Yasuo Ishida2, Sho Onodera1

1Kawasaki University of Medical Welfare
2Graduate School, Kawasaki University of Medical Welfare

I. はじめに
 浸水時に生体は,水の物理的特性の影響を受け陸上とは異なる生理的反応を示す1)。浸水時は,浮力が影響し,微小重力に近い環境となる2)。このことが,自律神経系に影響を及ぼしリラクゼーション効果に結びつくと考えられている3)。そこで本研究は,浸水と尿中カテコールアミンの関係性を明らかにすることを目的とした。

II. 方法
 A. 被験者
 被験者は,腎疾患や心疾患などの既往歴がない健康な成人男性7名(年齢:25 ± 6 歳,身長:174.1 ± 6.8 cm,体重:72.7 ± 9.0 kg,BMI:24.0 ± 2.4%,mean ± SD)とした。本研究は,川崎医療福祉大学倫理委員会の承認(承認番号:416)を得て実施した。
 B. 測定方法・測定環境
 1. 測定環境
 室内プール内の環境は,水温:30.0 ± 0.7℃,室温:25.9 ± 0.5℃,湿度:77.7 ± 9.5%であった。
 2. 測定条件及び測定プロトコル
 水中条件及び陸上条件の計2条件を設定した。水温は,30℃で行った。同一の被験者が2条件の測定に参加した。被験者には,前日のアルコール摂取不可,22時以降絶食及びカフェイン摂取不可を指示した。水位は,被験者の鎖骨位とした。測定プロトコルは,両条件ともに,60分間の立位安静とした。心拍数,血圧,主観的温度感覚指標は,10分毎に測定した。尿中カテコールアミン3分画は,60分時に測定した。
 3. 測定項目
 測定項目は,心拍数,血圧,主観的温度感覚指標,尿中カテコールアミン3分画とした。

III. 結果
 水中条件のアドレナリンは,陸上条件と比較して,有意に低値を示した(p<0.05)。水中条件のノルアドレナリンは,陸上条件と比較して,有意に低値を示した(p<0.05)。水中条件及び陸上条件のドーパミンは,有意な差はみられなかった。水中条件の心拍数は,陸上条件と比較して,有意に低値を示した(p<0.05)。水中条件の20分時以降の主観的温度感覚指標は,陸上条件と比較して,有意に高値を示し寒いと感じた(p<0.05)。水中条件の0分時の収縮期血圧は,陸上条件と比較して,有意に低値を示した(p<0.05)。水中条件の30分時の拡張期血圧は,陸上条件と比較して,有意に低値を示した(p<0.05)。

IV. 考察
 浸水中は,水の物理的特性である浮力によりリラクゼーション効果がもたらされる3)。カテコールアミンの低下は,腎血流量の増加をもたらし,浸水後に尿量が増加する2)ことを先行研究は報告している。本研究において,浸水20分時以降の主観的温度感覚指標が,陸上条件と比較して有意に高値を示した(寒いと感じた)。アドレナリンとノルアドレナリンの浸水60分後の有意な低下は,寒冷刺激によるものと考えられた。
 水中条件の0分時の収縮期血圧は,陸上条件と比較して,有意に低値を示した。このことから,浸水により浮力が働きリラックス効果がもたらされ,副交感神経が優位となり,血管収縮が弛緩され,収縮期血圧が低下したと考えられる。
 浸水時は,水圧の影響により静脈還流量が増加し,一回拍出量の増加や心拍数は減少がみられる4)。静脈還流量は水位に依存し,水位の増加に伴い静脈還流量も増加する4)。このことから,陸上条件と比較した鎖骨水位での心拍数の有意な減少は,水圧の影響であると考えられた。

VI. 利益相反
 開示すべき利益相反関係にある企業等はない。

VII. 謝辞
 本研究を遂行するにあたり,研究協力者に心より感謝申し上げます。

文献

1) Onodera S, Yoshioka A, Nishimura K, Kawano H, Ono K, Matsui T, Ogita F, Hara H:Water exercise and health promotion. The Journal of Physical Fitness and Sports Medicine, 2(4), 393-399, 2013.
2) 和田拓真,野瀬由佳,吉岡哲,小野寺昇:水位の違いが尿量および尿意感に及ぼす影響.日本宇宙航空環境医学57(1),15-20, 2020.
3) 西村一樹,山口英峰,中西洋平,小野寺昇:水温の違いが仰臥位フローティング中の直腸温および酸素摂取量に及ぼす影響.水泳水中運動科学7(1),17-22, 2004.
4) Sho Onodera, Motohiko Miyachi, Masahiro Nishimura, Kenta Yamamoto, Hidetaka Yamaguchi, Kouki Takahashi, Joo Yong In, Hiromi Amaoka, Akira Yoshioka, Takeshi Matsui and Hideki Hara:EFFECTS OF WATER DEPTH ON ABDOMINALS AORTA AND INFERIOR VENA CAVA RURING STANDING IN WATER. Journal of Gravitational Physiology, 8(1), 59-60, 2001.