宇宙航空環境医学 Vol. 58, No. 1, 24-25, 2021

一般演題 6

水中環境下における尿量と膀胱横断面積の関連

和田 拓真1,浮田 優香2,重岡 儀成2,石田 恭生2,小野寺 昇1

1川崎医療福祉大学
2川崎医療福祉大学大学院

Changes in urine volume and bladder area in water

Takuma Wada1, Yuka Ukida2, Yoshinari Shigeoka2, Yasuo Ishida2, Sho Onodera1

1Kawasaki University of Medical Welfare
2Graduate School, Kawasaki University of Medical Welfare

I. はじめに
 浸水時に生体は,水の物理的特性の影響を受け陸上とは異なる生理的反応を示す1,2)。浸水時は,浮力が影響し,微小重力に近い環境となる3)。また,水中環境における利尿作用の亢進は,水温3,4)と水圧5)の要因が報告されている。
 本研究は,水の物理的特性と尿量及び膀胱面積の関係性を明らかにすることを目的とした。

II. 方法
 A. 被験者
 被験者は,腎疾患や心疾患などの既往歴がない健康な成人男性7名(年齢:25 ± 6 歳,身長:174.1 ± 6.8 cm,体重:72.7 ± 9.0 kg,BMI:24.0 ± 2.4%,mean ± SD)とした。本研究は,川崎医療福祉大学倫理委員会の承認(承認番号:416)を得て実施した。
 B. 測定方法・測定環境
 1. 測定環境
 室内プール内の環境は,水温:30.0 ± 0.7℃,室温:25.9 ± 0.5℃,湿度:77.7 ± 9.5%であった。
 2. 測定条件及び測定プロトコル
 水中条件及び陸上条件の計2条件を設定した。水温は,30℃で行った。同一の被験者が2条件の測定に参加した。被験者には,前日のアルコール摂取不可,22時以降絶食及びカフェイン摂取不可を指示した。水位は,被験者の鎖骨位とした。測定プロトコルは,両条件ともに,60分間の立位安静とした。心拍数,血圧,主観的温度感覚指標は,10分毎に測定した。膀胱面積は,30分毎に測定した。尿量,尿比重,尿浸透圧は,60分時に測定した。
 3. 測定項目
 測定項目は,心拍数,血圧,主観的温度感覚指標,膀胱横断面積,尿量,尿比重,尿浸透圧とした。

III. 結果
 水中条件の尿量は,陸上条件と比較して,有意に高値を示した(p<0.05)。水中条件の30分時及び60分時の膀胱横断面積は,陸上条件と比較して,有意に高値を示した(p<0.05)。水中条件の尿比重及び尿浸透圧は,陸上条件と比較して,有意に低値を示した(p<0.05)。水中条件の心拍数は,陸上条件と比較して,有意に低値を示した(p<0.05)。水中条件の20分時以降の主観的温度感覚指標は,陸上条件と比較して,有意に高値を示し寒いと感じた(p<0.05)。水中条件の0分時の収縮期血圧は,陸上条件と比較して,有意に低値を示した(p<0.05)。水中条件の30分時の拡張期血圧は,陸上条件と比較して,有意に低値を示した(p<0.05)。

IV. 考察
 本研究において,尿量の増加に伴う膀胱面積の増大は,水の物理的特性である水温と水圧に影響を受けていると推測される。体温は,温度受容器と深部受容器の情報に基づき,体温が一定になるように調節されている6)。温度受容器と深部受容器の情報から,体熱産生すべきか,あるいは体熱放散すべきかを判断している6)。熱産生に関与する因子は,基礎代謝,甲状腺ホルモン,アドレナリン,体温のよる代謝調節であり,熱放散に関与する因子は,伝導,対流,輻射,蒸発である6)。体温が低下した時,皮膚血管を収縮させ,皮膚を流れる血流の量を少なくして熱の放散を防いでいる6)。同時に立毛筋を収縮させ,汗腺からの水分の分泌を抑制している6)。これらのことが,体温が低下すると体幹部の血流量が増加し,血液に細胞から水分が血液に流れ込むことから,腎臓は,水分過剰と判断し,水分を血液から水分を尿として排出するため尿量が増大したと推測する。

V. まとめ
 水中環境下における尿量の増加と膀胱横断面積が比例関係にあった。

VI. 利益相反
 開示すべき利益相反関係にある企業等はない。

VII. 謝辞
 本研究を遂行するにあたり,研究協力者に心より感謝申し上げます。

文献

1) 小野寺昇:水中運動と健康増進.体育の科学,50(7), 510-516, 2000.
2) Onodera S, Yoshioka A, Nishimura K, Kawano H, Ono K, Matsui T, Ogita F, Hara H:Water exercise and health promotion. The Journal of Physical Fitness and Sports Medicine, 2(4), 393-399, 2013.
3) 和田拓真,斎藤辰哉,林聡太郎,燒リ祐介,野瀬由佳,小野寺昇:水中と陸上における座位安静時の尿量および尿意感の変化.川崎医療福祉学会誌,22(2),224-230, 2013.
4) 和田拓真,野瀬由佳,小野寺昇:30℃および36℃浸水時における椅座位安静時の尿量および尿意感の比較.川崎医療福祉学会誌,24(1),59-66, 2014.
5) 和田拓真,野瀬由佳,吉岡哲,小野寺昇:水位の違いが尿量および尿意感に及ぼす影響.日本宇宙航空環境医学,57(1),15-20, 2020.
6) 社団法人日本スイミングクラブ協会:メディカルフィットネスインストラクター教本.大修館書店,東京,pp. 15-33, 2011.