宇宙航空環境医学 Vol. 58, No. 1, 16-17, 2021

一般演題 2

ビーグル犬における酸素ナノバブル水経口投与後のSpO2の推移

岩田 宗峻1,坂 龍馬2,清水 蓮奈2,根石 美紅2,藤田 真敬3,山之内 大4,麻生 義則5

1岐阜大学応用生物科学部共同獣医学科獣医臨床放射線学研究室
2岐阜大学応用生物科学部共同獣医学科獣医外科学研究室
3防衛医科大学校防衛医学研究センター特殊環境衛生研究部門
4ウィスコンシン州立大学血管外科
5東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子生命医学講座

Oxygeneration with oral administration of oxygen nanobubble water in beagle dog

Munetaka Iwata1, Tatsuma Saka2, Renna Shimizu2, Miku Neishi2, Masanori Fujita3, Dai Yamanouchi4, Yoshinori Asou5

1Laboratory of Veterinary Clinical Radiology, Joint Department of Veterinary Medicine, Faculty of Applied Biological Sciences, Gifu University
2Laboratory of Veterinary Surgery, Joint Department of Veterinary Medicine, Faculty of Applied Biological Sciences, Gifu University
3Division of Environmental Medicine, National Defense Medical College Research Institute, National Defense Medical College
4Division of Vascular Surgery, Department of Surgery, University of Wisconsin-Madison
5Department of Nano-Bioscience, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental Univiersity

はじめに
 航空機の機内圧は巡航高度において低下し,呼吸器や循環器に既往症をもつ乗客乗員では,病態悪化の危険性があることが認識されている。犬においてもフレンチブルドッグやボクサー犬など,呼吸器疾患の罹患率が高い短頭種では機内での死亡例が散見されることから,機内預け入れが制限もしくは禁止される。その他の犬種においても,基礎疾患を併発している症例では病態悪化の危険性が高まるが,航空法により機内への酸素ボンベの持込が制限されていることから,安全な酸素供給システムの開発が急務である。酸素ナノバブル(ONB)は直径2-3 nmの超微細なバブル内に酸素を充填したものであり,水中で浮上せず安定することからONB水として保存される。今回,我々はビーグル犬を用いて,ONB水の経口投与が経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)に与える影響について検討した。

方法
 本検討は岐阜大学動物実験委員会の承認を得て実施した(承認番号:2019-101)。臨床上健康なビーグル犬8頭に対して,ONBを3日間自由飲水させた後(以下,ONB群),4日目に全身麻酔下にて呼吸を完全停止させ,SpO2が90以下となるまでの時間を測定した。全身麻酔に先立ち,マロピタント(1 mg/kg)を皮下投与後,前投与としてミダゾラム(0.3 mg/kg)を静脈投与(IV)し,プロポフォール(4-8 mg/kg IV)で麻酔導入,次いで気管挿管しイソフルラン吸入(3%)により維持した。足背動脈を確保後,胃カテーテルで胃内にONB(5 ml/kg)を投与し,ロクロニウム(0.5 mg/kg IV)で呼吸を完全停止させた。対照群には水道水を3日間自由飲水させ,4日目に胃内投与し(5 ml/kg)(以下,水道水群),クロスオーバー試験として比較した。両群ともに,3日間の自由飲水後に全頭で血液血球検査,血液生化学検査および血液ガス分析を実施した。統計学的解析は,paired T testを用い,p<0.05をもって有意差ありと判定した。

結果
 自由飲水時の飲水量に群間で差は認められなかった(p=0.122)。呼吸停止からSpO2が90以下となるまでの時間は,水道水群に対してONB群で有意に延長した(中央値:60秒, p=0.037)(Fig. 1)。全身麻酔中における顕著な体温変動は無く,測定終了時の体温(p=0.27)と,呼吸停止前後での血液酸素分圧に有意差はなかった(p=0.32, p=0.29)。全頭でウォッシュアウト期間は4週以上であった。全頭で呼吸停止後に呼吸性アシドーシスが認められたが,その他の項目に異常は検出されず,試験終了後に問題なく覚醒した。

考察
 本検討に用いたONB水は純酸素と純水のみで構成され,化学物資や添加物を含まない。既に飲料水として市販されているが,ヒトにおいて有害事象は報告されておらず,本検討ではビーグル犬においても特記事項を認めなかった。ONB水の経口投与がSpO2に与える影響について過去に報告はなく,本検討によりONB水の経口投与が,無呼吸時のSpO2の維持に寄与することが示唆された。このことからONBの飲水により,低気圧環境下における呼吸器や循環器への負担を軽減させる可能性があると考えられた。今後は経口投与後のONBの体内動態について解明する必要がある。

Fig. 1 The time to oxygen saturation level below 90% during apnea.

利益相反
 本報告に関連し,発表者全員について開示すべきCOI関係にある企業等はありません。

謝辞
 本研究を行うにあたり多大なるご協力を賜りました,岐阜大学 柴田早苗准教授に深謝いたします。

文献

1) Iijima M, Gombodorj N, Tachibana Y, Tachibana K, Yokobori T, Honma K, Nakano T, Asao T, Kuwahara R, Aoyama K, Yasuda H, Kelly M, Kuwano H, Yamanouchi D. Development of single nanometer-sized ultrafine oxygen bubbles to overcome the hypoxia-induced resistance to radiation therapy via the suppression of hypoxia-inducible factor-1α. Int J Oncol., 52, 679-686, 2018.