宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 74, 2020

ニュースレター

若手の会公開シンポジウムに参加して

石橋 拓真

東京大学医学部医学科3年

 この度は,このような場に寄稿させていただく機会を頂き,誠にありがとうございます。私の所属するSpace Medicine Japan Youth Communityは,2019年12月1日に開催されました第65回日本宇宙航空環境医学会に於きまして若手の会公開シンポジウム「誰でも宇宙に行ける時代」に参加させていただき,その第一部「誰でも宇宙を目指せる時代」を開催させていただきました。
 簡単ではございますが,このシンポジウム開催に至るまでの経緯や所感を記させていただければと存じます。
 宇宙医学に関心のある学生のコミュニティとして2017年に発足したSpace Medicine Japan Youth Community(以下,Youth Community)は,徐々に拡大を続け,現在はメンバーは130人に上ります。2019年はG20関連イベントへの登壇や同志社大学宇宙生体医工学研究プロジェクトキックオフミーティングへの参加など,様々な活動を行いました。その総括として今回のシンポジウムでは,創設メンバーの鈴木優子を座長として,
 ① <活動報告> 多様化する学生プロジェクトの今とこれから
 ② <高校生からの提言> 宇宙医療ハッカソン 〜宇宙医学を未来へつなぐ〜
 ③ <学生団体パネル> 「生存」から「生活」へ 〜学生の描く,宇宙の未来像〜
の3企画を行わせていただきました。演題提出に際して①②の開催を希望した際に,大会長の河野先生から「もう一つセッションを追加してシンポジウムにしては?」とのお言葉をいただき,このような貴重な機会を設けさせていただくに至りました。
 まず①ではメンバーの林誠一から,1年間の活動をまとめてご報告しました。前述のものに加えて,宇宙医療ハッカソンやスタディツアーの開催,「宇宙・医学・栄養学」誌投稿などの外部への発信活動と,論文抄読会や月例会などの内部の学習活動の両輪がともに充実した1年でした。
 次いで②では,その中でも他団体と共催するなど特に力を入れた高校生向けのプログラム「宇宙医療ハッカソン」の開催趣旨説明をメンバーの宮下裕策が,その後ハッカソン優勝チームの高校生が当日の再現プレゼンを行いました。「初学者ならではの斬新な発想力をもつ高校生が,デザイン思考を用いて宇宙での医療課題解決を目指す」という全く新しいコンセプトや,優勝チームの堂々としたプレゼンテーションに,その後も活発な質疑応答が交わされました。
 そして③では,有人宇宙開発が「生存」から「生活」のフェーズへと移行していくにあたって肝要になる「医食住」の3分野から見る宇宙居住の将来像を,各分野の学生団体・コミュニティからのパネリストがディスカッションしました。宇宙医学分野からは私石橋が,宇宙建築分野からはTNLの長谷川翔紀さんが,宇宙食分野からは宇宙と食の若手研究会の都築則彦さんが登壇し,モデレーターとして「宇宙開発における文理融合」を掲げる学生団体SDFの五味篤大さんに進行していただきました。ディスカッションでは「無重力によって動きが加わるという宇宙の特性は,医療では壁になるが,食ではむしろ付加価値になる」といった分野横断的な分析から,「そもそも宇宙旅行が産業として継続的に発展するには,宇宙が『さして真新しくない旅行先』になった後にも人々を惹きつけるような独自のコンテンツが不可欠」といった産業全体を長期的に捉えた指摘まで飛び出し,刺激の多いセッションとなりました。
 発表を終えて最も強く感じているのは,宇宙医学分野における多世代共創が起き始めているということです。発表後とある先生から「学生がこれだけ横断的にやっているなら,我々シニアの研究者は宇宙医学をサイエンスとしてより高いレベルに持っていくために頑張らなければならないと思った」とのお言葉を頂戴しました。私たち学生の価値の一つは「越境」だと考えており,今回もその価値をできるだけ発揮しようとした次第ですが,それも圧倒的な熱量を持って研究に取り組まれる先生方からのご指導があってこそのことです。学生とアカデミアの架け橋を志向するコミュニティとしては,そのような双方向的な創発に資することは,この上ない喜びであり,今後も引き続き精進してまいる所存です。
 最後に,貴重な機会を与えてくださいました第65回大会長の河野史倫先生,及びお世話になった諸先生方に厚くお礼申し上げます。ありがとうございました。