宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 73, 2020

ニュースレター

第65回大会シンポジウム:「将来の他惑星移住を目指して:Biosphere 2での京都大学有人宇宙キャンプの取り組み」を振り返って

寺田 昌弘

京都大学宇宙総合学研究ユニット 特定准教授

 現在,月周辺軌道や火星への有人宇宙ミッションが計画されており,今後は益々有人宇宙分野が発展していきます。京都大学宇宙総合学研究ユニット(宇宙ユニット)では,将来宇宙に人が居住するためにはどのような技術・制度などが必要かを学ぶための宇宙教育プログラムを実施しています。その一つとして,宇宙飛行士ミッションを模擬した有人宇宙キャンプを京都で過去3年間行ってきました。2019年度は更にこのキャンプを発展させて,アリゾナ大学の協力の下,半閉鎖人工生態系であるBiosphere 2 (アリゾナ州オラクル)で国際的な有人宇宙キャンプ(Space Camp at Biosphere 2:SCB2)を実施しました。Biosphere 2は人類が他惑星へ移住した際の条件検討のために建設された巨大な施設で,人工海洋・熱帯雨林・サバンナ・砂漠環境などが施設内に併設されています。この環境維持システムを学ぶことによって,将来宇宙で人類が居住するためにはどうすべきかを学ぶことができます。京都大学とアリゾナ大学からそれぞれ5名 (計10名)の学生を選抜し,2019年8月に5泊6日のSCB2が開催されました。このSCB2では,「10名が10年間火星で居住できる環境を構築するにはどうしたらいいか?」を課題として与え,5チーム(1チームは日本人学生とアメリカ人学生の2名)ごとにキャンプから学んだことに基づいて回答を出していきました。
 今回の第65回大会シンポジウムでは,京都大学の学部学生5名がSCB2での成果発表を行いました。5人の学生は,(1)宇宙を知る:火星環境を調べる,(2)宇宙を生きる:食料生産・大気・エネルギー生産,(3)宇宙を考える・作る:概念設計,(4)宇宙放射線の影響,(5)閉鎖系におけるストレス影響,の5つに分けて発表しました。特に,(1)(2)(3)では,10名が火星で居住するBiosphere 3の建設地の候補や設計図,どのようなシステムを取り入れるのかなどをSCB2からの学習を通じて考案しました。また,(4)(5)では火星での居住における人体への影響などで懸念されること,さらにどのように解決していくべきかなどを検討しました。
 このような国際的な取り組みは,学生のモチベーション向上だけでなく国際感覚を養うためにも大変有効なものです。京都大学では2020年・2021年度もこのSCB2を計画しており,次回からは京都大学以外の全国の大学からも参加者を募集する予定です。是非今後も,将来の有人宇宙ミッションに必要となる知識や経験を獲得するための宇宙教育プログラムを提供していきたいです。
 今大会では,我々の成果を発表させていただく大変貴重な機会を設けていただいて,大会長の河野史倫先生はじめ,学会の先生方に深く感謝いたします。