宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 72, 2020

ニュースレター

3. 第65回大会関連
第65回大会を終えて

河野 史倫

松本大学・大学院健康科学研究科

 2019年11月29日(金)から12月1日(日)の期間,長野県松本市の松本大学にて第65回日本宇宙航空環境医学会大会を開催し盛会のうちに終えることができました。第65回大会は「誰でも宇宙に行ける時代」というテーマのもと開催されました。民間宇宙旅行が既に販売されいよいよ運用が始まろうとしている時代になっています。サブオービタルのみならず,国際宇宙ステーションや月への宇宙旅行も今では現実味を帯びています。先日,NASAは国際宇宙ステーションを民間企業に開放する商業利用方針を発表しました。これにより企業が国際宇宙ステーションを「宇宙ホテル」として利用することも可能となり,今後はより多くの民間人が宇宙へ行く時代が訪れます。誰もが安全に宇宙へ行ける時代を築くために,“より遠く,より長く”宇宙開拓できる科学技術が必要です。我々は,人がいる場所には必ず医療が必要であると考えます。「誰でも宇宙に行ける」ようになるためには,もっと多くの人が宇宙を学び,宇宙に関わることを目指せるようになってほしいと願います。本大会のテーマである「誰でも宇宙に行ける時代」とは,旅行などで実際に宇宙へ行くことは当然のことながら,誰でも宇宙と関われることを目指して学んだり,活動したり,仕事をしたりできる時代でもあることを含んでいます。本大会は特に若手研究者,大学生,高校生たちが今後どのように宇宙と関わっていけるのか,情報共有や議論する機会となるよう企画しました。
 大学における宇宙医学の専門的な学びの導入が既に始まっています。京都大学では有人宇宙実習やその発展としてSpace Camp at Biosphere 2を実施し,学部学生が宇宙医学に関連した学外での実習を体験しています。同志社大学はSpace DREAM (Doshisha Research Project for Active Life in Space Engineering and Medical Biology)プロジェクトが発足し,理工学,スポーツ健康科学,脳科学,生命医科学研究科等が連携し宇宙医科学研究に取り組んでいます。このような「誰でも宇宙を学べる」現状について各大学からシンポジウムや特別セッションを通じて発信してもらいました。若手の会シンポジウムは一般公開で実施しました。宇宙での医食住を考えるということで,各方面で活動する学生に登壇してもらい,医療×栄養×建築をテーマに月や宇宙空間に居住することを想定した討論を実施しました。宇宙にはまだどうしても宇宙でやりたいという確固たるコンテンツが無く,今後宇宙でしかできない楽しみ方等を見つけていくべきだという意見が非常に印象的でした。クラブツーリズム・スペースツアーズの浅川恵司社長をお招きし,現在販売されている民間宇宙旅行の概要についてお話しいただきました。民間月旅行についても構想されているとのことで,その想定される旅行スケジュール等も説明があり,非常に興味深く拝聴しました。本大会を通じて,「誰でも宇宙へ行ける時代」になってきていることを参加者の皆様に実感していただけたのではないかと思います。そして,このような宇宙医学の知見や技術が,地上医学のさらなる発展やあらたな医療技術の創出に結びつくことを期待します。
 最後に,2019年は相次ぐ大型台風上陸や大雨など相次ぐ自然災害が日本各地を襲いました。被災された皆様へ心よりお見舞い申し上げます。長野県におきましても大規模な河川氾濫などに見舞われ,一部地域では今でも復旧作業が続いています。このような折に全国から参加者の皆様にお越しいただき本学会を開催できたことを光栄に思うとともに,被災地の1日も早い復興を心より祈願致します。特殊環境での医学・医療を専門に取り扱う本学会としましても,災害時や緊急時の医療技術発展に貢献できるよう努めてまいります。