宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 71, 2020

ニュースレター

2. 分科会便り
ムーンビレッジ国際ワークショップ・シンポジウムと探査の将来を考える勉強会

泉 龍太郎(日本大学)

日本宇宙航空環境医学会 宇宙基地医学研究会世話人, 宇宙惑星居住科学連合担当

 令和元年12月5日〜8日,東京と京都の2ヵ所の会場で,向井千秋飛行士(東京理科大学),土井隆雄飛行士(京都大学),及び青木節子教授(慶応義塾大)の3名を日本側のCo-Hostとして,第3回ムーンビレッジ国際ワークショップ・シンポジウムが開催されましたが,それに先立ち,JAXA宇宙科学研究所の稲谷先生を中心とし,同年の8月30日〜11月26日の間に,6回に亘って「探査の将来を考える勉強会」が開催されました(表1)。

表1 探査の将来を考える勉強会
日時 演者(所属) 演題名
1 8月30日 稲谷 芳文(JAXA宇宙研)
高橋 昭久(群馬大)
ムーンビレッジのゴールを定義してみる
宇宙での長期滞在:宇宙放射線とガン死リスク
2 9月18日 泉 龍太郎(日本大学/JAXA)
小林 弘明(JAXA宇宙研)
宇宙に滞在する人間の健康管理
宇宙でのその場資源利用(ISRU)と水素エネルギー社会構築活動の接点
3 10月4日 石川 正道(理研)
内田  敦(三菱総研)
月面ラボを拠点としたその場資源利用
宇宙資源ビジネスの創出とエコシステムの構築
4 10月28日 北宅 善昭(大阪府立大)
唐原 一郎(富山大)
宇宙での食料生産・物質循環・健康維持機能を担う植物システムの構築
5 11月11日 伊巻 和弥(有人宇宙システム株式会社)
秋元  茂(ミサワホーム〔株〕技術部)
井上 夏彦(JAXA有人宇宙技術部門)
1,000人の月面社会を運用する
宇宙に社会を作る:新しい居住の姿
長期宇宙滞在時の精神心理的課題と対策について
6 11月26日 村上 祐資(極地建築家/特定非営利活動法人フィールドアシスタント代表)
小塚荘一郎(学習院大学)
春山 純一(JAXA宇宙研)
閉鎖環境の暮らしと人間社会
宇宙長期滞在の時代と法的課題
月探査の将来を考えるにあたっての科学的知見

 有人宇宙開発の将来に関しては,月面基地をベースにしたゲートウェイ計画や火星探査が議論されていますが,このムーンビレッジは,2040年頃には,宇宙に1,000人規模の人間社会が出来ているのではないか,との想定を前提し,その時の社会はどのようなもので,何が必要かを検討する,という考え方に基づいています。宇宙医学に関しては,第2回勉強会で,私の方から話題を提供させて頂きましたが,医学・生命科学に関わらず,法的側面や産業界を含め,多くの分野からの発表があり,非常に興味深い内容でした。例えば第3回の勉強会で講演された三菱総研の内田敦氏は,氏自身が中心となって,現在30社ほどが集まって活動している「フロンティアビジネス研究会」の活動を紹介されましたが,その中では,例えば月面にホテルを建設した場合,どのようなインフラが必要とされるか,また飲食物を含め,要するコストの算出等,現実的で,また医学にも関連する点も多い内容でした(この研究会の活動内容は,令和元年12月18日に開催された公開シンポジウムの資料で参照することが可能です1))。また,内田氏からは,同様の内容を令和2年1月31日の宇宙基地医学研究会でご発表頂きました。もう一つ興味深かったのは,JAXAの取り組む精神心理的な課題への対応には,有人宇宙技術部門の井上夏彦氏から第5回研究会で発表がありましたが,それ以外にも,第5回の秋元茂氏,及び第6回の村上祐資氏は,いずれも南極越冬隊に参加した経験を有しており,閉鎖環境という観点からも,非常に貴重な内容であったと思います。この勉強会やムーンビレッジ国際ワークショップ・シンポジウムの内容は,記録として残し,公開するよう,働きかけているところですので,まとまった際には,皆さまにも案内したいと思います。またこのような勉強会や国際シンポジウムの今後の取り組みの一案として,日本宇宙航空環境医学会が関連している宇宙惑星居住科学連合との連携の基での継続も提案されており,具体案がまとまった際には,ご支援頂ければと思います。

1) 宇宙開発の未来共創2019 宇宙,未来から日常へ フロンティアビジネス研究会 公開シンポジウム https://www.mri.co.jp/seminar/20191218.html