宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 66, 2020

ニュースレター

4. 第64回大会関連 (3)第64回大会に参加して
研究奨励賞を受賞して

倉住 拓弥

日本大学医学部 社会医学系 衛生学分野

 「Houston…」
 宇宙飛行士が地上のMission controlに呼びかけるシーン,この声を聞くだけで気分が高揚する人は少なくはないのでしょうか。私もそのような宇宙人(宇宙好き)の一人でした。
 幼少からアポロ13,スターウォーズなどおそらくこの学会の先生方にも馴染みの深い映画に影響を受け,「宇宙」に対して憧れを抱いていました(夜空に浮かぶ月を見るとつい親指で隠してしまいます)。しかし,私が実際「宇宙医学」に足を踏み入れたのは,そう早くはなく医師になって6年程経ってからでした。研修医時代,当時の麻酔科部長との会話で「日大で宇宙医学の研究を行っている」という話を耳にしていましたが,いざ麻酔科医として働きだすと日々の診療に追われてしまい,なかなか足を運べずにいました。そのような時,大学院に進学するという進路を模索する中で「研究」について考え始めました。
 「日大で宇宙医学を学びたい」
 そう決意した私は,所属していた慶應大学麻酔学教室の森附_教授にお願いをし,国内留学という形で日大で「宇宙医学」を学びはじめました。
 日大で行っているヒトを対象とした研究は生理学を基盤とすることが多く,麻酔科医を生業としていた私にはとても入り込みやすい領域でした。当時,宇宙での視力変化の問題(VIIP:Visual Impairment and Intracranial Pressure syndromeやSANS:Spaceflight Associated Neuro-ocular Syndrome)がまさにhot topicとして取り上げられていた頃で,「この症状は,近年問題視されている手術中の視力障害 (POVL:Postoperative Visual Loss)と類似しているのではないか」,「体液シフトやCO2曝露は,一部の手術と同じような状況であるぞ」とBrain stormingに熱くなり,気持ちが昂りました。一方で,「少しでも腑に落ちない点があったら立ち止まって“とことん”追求する」という「研究」の基本となる姿勢に,これまで「臨床」の経験しかなかった駆け出しのころの私は,少し戸惑いを覚えたこともありました。しかし今では,一つ一つじっくり追及していくという過程を噛みしめられるようになったと感じております。そして,臨床でのちょっとした疑問が研究のネタになることや,何気なく使っていた医療器材が「これは研究に使えるのではないか」など,常日頃からクリエイティブな発想が楽しめることも「研究」の醍醐味であると感じています。
 研究内容について,本学会や国内外の学会で発表をさせていただきました。海外の学会では,若い研究者達が同様の研究を発表しており,やはりこの問題はtopicであると再認識しました。また「体液シフトとCO2曝露」は,腹腔鏡やロボット手術が普及している周術期領域でも話題で,麻酔科の学会でも評価していただきました。本研究内容が論文として世に発信でき,さらに研究奨励賞という素晴らしい賞を賜ることができましたことは,研究や宇宙医学について熱心にご指導くださいました岩阜ォ一教授をはじめ,実験をサポートしてくださった小川洋二郎先生,柳田亮先生,そして研究全体を支えてくださった森赴ウ授のおかげであり,この場をお借りして深く感謝御礼申し上げます。
 現在,日大の宇宙医学テーマの研究に帯同させていただき,冒頭の“Houston”にたびたび足を運ぶ機会に恵まれております。学生時代に一度訪れたことがありましたが,まさかこんなにも“Houston”が身近になるとは思ってもいませんでした。そしてこの度,このような執筆の機会を与えてくださいました立花正一先生はじめ当学会の先生方に深く御礼申し上げます。これからもクリエイティブな姿勢で「臨床」と「研究」の二刀流を楽しんでいきたいと思います。