宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 59, 2020

ニュースレター

4. 第63回大会関連 (5)第63回大会に参加して
宇宙航空環境医学 若手の会シンポジウム「地上に還元できる宇宙医学研究の可能性」

大本 将之1),丸目 恭平2),太治野純一3),石北 直之4),河野 史倫5)

1)久留米大学医学部整形外科学教室
2)熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学
3)京都大学大学院医学研究科
4)国立病院機構 渋川医療センター
5)松本大学大学院・健康科学研究科

 宇宙航空環境医学若手の会は,第63回大会(11月16日〜18日,久留米大学)でシンポジウムを開催致しました。「地上に還元できる宇宙医学研究の可能性」というテーマで,丸目恭平先生(熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学),太治野純一先生(京都大学大学院医学研究科),石北直之先生(国立病院機構 渋川医療センター 小児科,STONY)をお招きし御講演頂きました。
 丸目先生からは「循環器領域における宇宙医学と地上への還元の可能性」について宇宙医学における循環器疾患や,心筋の萎縮,起立性低血圧への対策,HFpEF(拡張性心不全)が心臓の駆出力は保たれながら拡張障害から起こることなど,臨床と照らし合わせながら,御講演頂きました。アポロ計画以降の心疾患の増加理由に関しての質問には,放射線からの影響のみではなく,酸化ストレスからの血管内皮障害→動脈硬化→心疾患の可能性について示唆されました。
 太治野先生からは「微小重力環境によるラットの行動・動作の変化を遠心重力を用いて抑制する」について,unloadingがラットに及ぼす影響を学習機能に関わる部分まで御講演頂きました。理学療法士の立場としてベッドレストの状況ではリハビリが重要になってくることを基礎的な観点からお話を頂きました。
 石北先生からは「宇宙環境における超小型簡易吸入麻酔器(嗅ぎ注射器)の有用性の検討」について① 麻酔薬気化機構,② ガス回収機構,③ 空気圧駆動人工呼吸器の各種性能を御講演頂きました。嗅ぎ注射器は,宇宙船に搭載が可能なことは勿論,3Dプリントで遠隔地へ転送できる技術も確立しているなど唯一無二の機能性と簡便性であると感じました。
 若手の会担当理事河野先生から「宇宙旅行などの短期滞在で重要となるのは?」との質問に対しては3人の先生からvolume shiftに対するミドトリン内服,飛行前のリハビリの重要性,急変時への麻酔の重要性について示唆を頂きました。本大会での若手の会シンポジウムにより,宇宙(極限医学)と地上(臨床医学)の接点を見出す難しさを認識することができました。宇宙医学の発展のためには地上での多くの人々への公益が重要であり,今後も研究推進に取り組んでいきたいと考えています。