宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 57, 2020

ニュースレター

4. 第63回大会関連 (3)第63回大会に参加して
最優秀論文賞を受賞して

北島尚治久

北島耳鼻咽喉科医院, 東京医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科

 この度はこの様な素晴らしい賞を賜り,誠に光栄に存じます。この場をお借りして,皆様方に深く感謝,御礼申し上げます。大学病院在籍中はめまい平衡を専門とし,10年前に退局し父と共にクリニックで仕事をするようになってからは趣味のスクーバダイビングの知識経験を生かし潜水医学について学ぶようにもなりました。日本宇宙航空環境医学会はそんな私の専門性を受け止めてくださる学会でしたので,本学会で最優秀論文賞を受賞できることは研究成果のみならず私のライフワーク全てが認められたように実感し,感慨無量でございます。
 私が本学会に入会させていただいたのは平成18年でした。先に入会していた妻から本学会を紹介され,その活動内容に興味をもち,すぐに入会させていただきました。そして学術集会や会報誌を拝見し,これまで耳鼻咽喉科で学んできた平衡医学へのアプローチの仕方との違いに驚かされ,また未知の分野の研究への知的好奇心が高まっていくのを感じました。そのうち,この学会の中でぜひ自分の研究成果を発表したいと考えるようになり,これまでに本論文も含め2本の原著論文を寄稿させていただきました。
 今回の研究内容,“Evaluation of Meniere’s disease using tympanic membrane temperature and relevance between tympanic membrane temperature and weather (鼓膜温測定によるメニエール病の評価,および気象との関連性について)”は,難治性めまい疾患であるメニエール病を鼓膜温測定によって発作を予期できないかという試みでございます。メニエール病患者はめまい,難聴,耳鳴発作が予兆なく生じる場合が多く,発作に怯えながら日々を過ごしています。今回の研究内容は 「発作がいつ起こるのか,前もってわかればいいのに……」というメニエール病患者のそんな一言がきっかけとなり開始いたしました。研究の遂行は決して楽な道のりではありませんでした。研究に先立ち医療倫理委員会を通す必要があったため地元医師会や耳鼻咽喉科学会に相談しましたが,クリニックのために委員会を開いてくださるところはなく,序盤からすでに困難を極めました。危うく研究が頓挫してしまうかというところで一縷の望みをかけて相談した母校の東京医科大学だけが温かく受け止めてくれました。研究開始後もなかなか症例が集まらず,貸し出した鼓膜体温計を持ち逃げされたまま連絡不通になってしまった例もあります。このようにして苦難の連続だったこの研究が最終的にこのような名誉ある賞をいただくに至り,クリニックで研究を続ける困難さと同時に可能性を見出すことができました。
 これまで様々な研究の機会を与えていただき,私を耳鼻咽喉科医として育てて下さいました鈴木衞先生,動物実験を通して基礎研究の大切さを教えて下さいました故・内野善生先生,そして常に私を傍らで支えてくれた妻の北島明美先生に心から感謝申し上げます。私の研究結果が,メニエール病患者のみならず,宇宙などの特殊環境におけるセルフメディケーションなどに少しでもお役に立つことができれば幸いに存じます。今後ともご指導,ご鞭撻の程,宜しくお願い申し上げます。