宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 48, 2020

ニュースレター

5. 第62回大会関連 (2)第62回大会に参加して
航空医療搬送シンポジウムを開催して 〜第62回日本宇宙航空環境医学会大会より〜

水野 光規

あいち小児保健医療総合センター 総合診療科部 救急科

 第62回日本宇宙航空環境医学会大会において,宇宙航空認定医シンポジウム「航空搬送」と,宇宙航空若手の会シンポジウム「宇宙旅行〜私も宇宙に行けますか?」の2企画の立案に携わる機会を頂きました。後者は,河野史倫氏より別に報告がありますので,ここでは「航空搬送」の企画に関して焦点を当てたいと思います。本邦の航空搬送の歴史を振り返るとともに,様々な機関の航空搬送の特徴と現状を知り,航空搬送の未来を考えていく企画でした。
 本企画では,まず私より本邦の航空医療搬送に関する歴史と現況を概説したのち,名古屋市消防航空隊より纐纈吉博氏,愛知県ドクターヘリより加納秀記氏,医療優先固定翼機(メディカルウィング)より岡田眞人氏,航空自衛隊・航空機動衛生隊より宮脇博基氏に演者として登壇頂き,各機関の特徴と活動の実際を報告していただきました。
 本邦における患者空輸体制は1925年愛国2号導入より始まり,1963年には自衛隊によるヘリコプター搬送が開始されました。
 消防/防災ヘリは1967年(東京消防庁)より始まり,2015年10月現在45都道府県76機配備されています。救急活動のほか,救助活動,消火活動など様々な消防業務に活用されます。消防ヘリは消防法施行令第44条(救急隊),防災ヘリ(都道府県の航空消防隊)は消防組織法第30条と根拠法令が異なるものの,消防組織が運航する多目的ヘリコプターとして「消防防災ヘリコプター」とまとめられることが多いです。全国の出動件数は7,061件/年(2014年)であり,救急出動は3,456件(48.9%)でした。実際に救急搬送した2,718名のうち1,197名(44.0%)が転院搬送でした。
 一方,ドクターヘリ(救急医療用ヘリコプター)は2001年より正式に運航が開始され,2015年8月現在,38道府県46機配備されています。救急医療に精通した医師・看護師を載せ,要請から3〜5分で離陸する機動性を有しています。出動件数は22,643件/年(2014年度)にのぼり,うち15,649件/年(69.1%)が現場出動です。2016年で15年間と歴史は浅いですが,本邦において患者空輸を担う最大の航空医療搬送システムとなっています。
 民間の医療優先固定翼機である「メディカルウィング」は,北海道航空医療ネットワーク研究会により2010年研究運航を開始,2011〜13年度には「新たな北海道地域医療再生計画」の一事業として運航しました。そして2016年6月から実証事業運航に取り組んでいます。
 自衛隊による急患輸送は419件/年(2015年度,統合幕僚監部報道発表資料)であり,離島や僻地からの搬送を主としています。「空飛ぶICU」とも称される機動衛生ユニットを利用した航空自衛隊・航空機動衛生隊(2006年新編)による搬送は体外式膜型人工肺(ECMO)などを装着した重症患者や重篤小児の長距離搬送に活躍している。2015年以降では,18件中10件(56%)が重篤小児症例となっています(航空機動衛生隊ホームページ各種実績より引用)。
 このほか,海上保安庁は1953年,警察航空隊は1959年(警視庁)にヘリコプターを導入し,前者は洋上救急や離島急患輸送,後者は山岳救助等で航空搬送を実施しています。また,民間の定期旅客機やチャーター機,医療機関等に所属する民間ヘリ等による患者空輸も実施されています。しかし定期旅客機は旅客運送約款や関係法令を理解し定時運航への十分な配慮を要する等,特に重篤な患者空輸には熟練が必要です。またチャーター機は患者側の負担する費用が高額になることが少なくなく,民間ヘリも資金面からごく一部の施設しか運航できていません。
 本邦の航空医療搬送はドクターヘリの導入で飛躍的に件数が増加しました。しかしドクターヘリは運航可否に天候の影響を大きく受け,機内は狭く,長距離搬送には向きません。各機関の特性を十分に理解し,患者空輸の目的,病態(重症度,緊急度),距離等に応じて選択・活用していくことが必要と考えられます。今後の航空医療の発展に期待しつつ,まとめに代えさせていただきます。