宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 45, 2020

ニュースレター

5. 第62回大会関連 (1)第62回大会を終えて
第62回日本宇宙航空環境医学会総会・日本宇宙生物科学会第30回合同総会を終えて

岩瀬  敏

愛知医科大学生理学

 日本宇宙航空環境医学会と日本宇宙生物科学会の初の合同総会を終えてほっとしているところである。もともと日本宇宙航空環境医学会は,1955年に日本航空医学心理学会として発足した学会であったが,1962年に日本航空宇宙医学心理学会と改称した。ここから日本の宇宙医学が始まったといって良いと思われる。私も環境医学研究所の大学院(間野忠明教授)に入学した1983年に入会している。日本宇宙生物科学会は,1987年に設立された宇宙環境におけるlife scienceを研究する学会で,その設立過程に環境医学研究所の御手洗玄洋教授の後任の渡辺悟教授と間野先生が関わっていたため,私も初期から関与していた。両学会には共通点が多く,共通会員も多いため,以前から共同開催が希望されていた。
 海外でも宇宙医学はspace life scienceの範疇に入ることが多く,ISGP, International Society for Gravitational PhysiologyやCOSPAR, Committee on Space Researchでの知り合いもSpace Life Science関連が多かった。そのため,両学会の合同開催を望む声は多く,両学会の理事会において2年前に提唱させていただいた。
 幸い賛同も得られ,合同総会の開催が2016年10月13-15日と決定された。そのテーマは,両学会の共通分野から,「国際宇宙ステーションを越えて,月基地,火星探査へ」とした。学会の運営はこれまでも同学会の開催を間野忠明会長(第42回1996年),菅屋潤壹会長(第53回2007年)で行い,第66回自律神経学会の会長も担当した。その経験から① 学会の質を決定するのは,シンポジウム,ワークショップ,特別講演,教育講演などの学会側が準備した企画である,② 企画のコーディネーターに適任を選び,構成,演者を全て任せる,③ 特別講演,教育講演に著名人,外国人を呼ぶ,④ 学会場を大学施設に設定する,⑤ 経費を節減するため,旅費は負担しない,⑥ 懇親会に十分な料理を用意する(質より量),⑦ 昼休みに外に逃がさないようにランチョンセミナーを充実させる,などが,成功のtipsと考えている。
 以前の学会もそうであったが,ポスター作成において,自身が撮影したポスターを使用した。またネット注文ができる印刷所にお願いしたため,非常にポスターおよびプログラム作成費用は安価に仕上がった。

30周年記念シンポジウムの集合写真

 まず講演者を向井千秋先生とGilles Clément先生にお願いした。向井先生には,2年前から確約を取り,当日来て戴いた。2月にGalvestonで人工重力ワークショップが行われたとき,Clément先生に秋に日本へ行くので,そのスケジュールと合わせてやると言う返事をもらい,お願いした。次にシンポジウムを企画した。1. 御手洗玄洋先生追悼シンポジウムは,お弟子さんの森滋夫先生に相談し,間野忠明先生,臼井史朗先生,三宅養三先生と大物にお願いした。この企画は御手洗先生の業績を偲ぶだけでなく,以前からの会員で最近はあまりお顔を拝見しなかった先生方の出席を得ることができた。2. 月,火星へのワークショップは,今回のテーマの中心である。名古屋大学のイオン推進ロケットを研究されている佐宗章弘先生に宇宙研の大西充先生をご紹介いただき,緒方克彦先生と一緒にコーディネーターをお願いした。3. 「宇宙に生きる」ワークショップは,現在進行中の文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)「宇宙に生きる」宇宙ひもとく新たな生命制御機構の統合的理解,の関連ワークショップである。班員である森田啓之先生に古川聡先生と共同でお願いした。4. 航空搬送のシンポジウムは,最初ドクターヘリとして企画したが,コーディネーターの水野光規先生の意見で,ドクターヘリだけでなく,自衛隊や災害ヘリなどの出動も含む内容に変更した。5. Biosphere,宇宙放射線のシンポジウムは,両学会の狭間を埋める企画として,それぞれ篠原正典先生,次期宇宙生物科学会の会長,高橋昭久先生にコーディネーターをお願いした。6. シンポジウムの動植物の重力応答,Astrobiologyは,宇宙生物側から企画を頼まれ,それぞれ東谷篤志先生,小林憲正先生にとりまとめを依頼した。また共通話題として,筋萎縮に関する合同ワークショップを,大平充宣先生,二川健先生に頼んだ。7. 宇宙エレベーターのシンポジウムは,この装置に関する研究を立ち上げの頃から主導してきた三菱重工 土田哲氏(以前は宇宙航空研究開発機構)に,ドクターコールと良きサマリア人の法に関しては,倫理に強い三浦靖彦先生に内容のとりまとめをお願いした。8. 若手シンポも水野光規先生にコーディネーターになっていただき,スピーカーに商業的宇宙旅行の共同研究者である緒川修治氏らをお願いした。
 ランチョンセミナーに関しては,名古屋市立大の早野順一郎先生にbig dataのお話を,以前日大の谷島一嘉先生のもとで宇宙医学実験に携わっておられた中里龍生先生に宇宙実験のお話をして戴いた。スポンサーには中里先生が産業医をしておられる三菱鉛筆からジェットストリームの名入りボールペンが届けられた。谷島先生の助教授をされていた平ノ要先生にもご寄付を戴いた。
 懇親会は,両学会合同で愛知医科大学のそばにあるサンプラザシーズンズを利用し,なるべく量を多くお願いした。希望の方にはサンプラザに宿泊戴いたので,便利であったと思う。
 また宇宙生物科学会は,第30回大会の記念大会であったため,両学会に関連する先生方に御講演をお願いし,3時間半にわたる長大シンポジウムを開催していただいた。この担当の文部科学省科学技術・学術政策研究所 科学技術予測センター 矢野幸子特別研究員には大変お世話になった。感謝したい。
 各コーディネーターに2月頃に企画をご相談申し上げ,スピーカーの人選,抄録の送付を依頼した。その後は意外にスムーズに進んだのだが,やはり問題はこれだけの企画を如何に時間内に収めるか,というところにあった。これには事務局長の西村直記先生と副会長の田中邦彦先生の多大な努力の賜で何とか収まった。
 さて,いよいよ開催時期となって大変だったのは,受付,会場係などの手配であった。まわりの人員を動員し,さらに共同研究者の須賀京子朝日大学教授やその教室員に多大の協力を得たことに感謝したい。スタッフの生理学教室からの応援である西田さん,濱千代さん,佐藤麻紀助教,塩野裕之准教授,松井卓哉講師にも運営で助けていただいた。
 向井先生の特別講演には,愛知医科大学の学内からも多くの聴講者に来て戴き,盛況であったことは喜ばしい。さらにこちらの企画として,宇宙エレベーター,商業的宇宙飛行の若手シンポジウム,航空搬送,ドクターコールのシンポジウムは,会場が満員で立ち見も出るほどであった。
 驚いたことは,宇宙エレベーターのシンポジウムに,愛知教育大学附属中学校の1年の女子中学生が聴講したことであった。高校生以下の聴講は無料であったため,このようなことも可能となった。中学校を通じて1つもテーマを追求する学習の一環として聴講したとのことであった。
 このように多くの方々の支援により,本合同総会が成立し,370名の会費参加者が得られたのは,幸甚であった。最後に加地正伸宇宙航空環境医学会理事長,高橋秀幸宇宙生物科学会理事長に,本合同総会の成立に御尽力戴いたことに対して深謝申し上げる。

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