宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 42, 2020

ニュースレター

4. 各分科会だより (1)宇宙基地医学研究会

大本 将之

久留米大学

 平成28年度の宇宙基地医学研究会は,2016年9月23日,東京慈恵会医科大学で開催した。地球上の公益のために宇宙事業があるとの観点から,今年度の研究会は,有人宇宙探査の価値へ焦点を当てることに決め,「宇宙の可能性」について山崎直子先生(立命館大学客員教授,女子美術大学客員教授)より,「国連と宇宙活動」について土井隆雄先生(京大特定教授)に御講演をお願いした。
 はじめに,山崎先生の講演概要を紹介する。宇宙空間では筋量が減ることや,体内の水分量が減ることで体重減少が起きる。宇宙飛行士は毎年,体力測定を行っている。ロシアのソユーズでは懸垂を14回以上行えることが目標とされる。6-7割の飛行士が経験する宇宙酔いは経験,乗り物酔いの既往歴とは関係なく発生する。宇宙空間でおきる不可逆的な問題として,放射線被曝がある。地上で浴びる放射線の,半年分を一日で浴びることから,計測バッジで被爆量をモニターしながら管理している。もう一つは視力で,遠視になりやすく,近くの焦点が合いづらいという事である。宇宙空間での良い面としては,線虫を3週間宇宙空間へ滞在させると老化をコントロールする遺伝子の発現が減少し,寿命が延びるのではないかという説がある。遺伝子の構造は変わっていないが,機能が変わってくる。国際宇宙ステーションでは電気が明るい方が上とされているが,無重力のためステーション軸と,自分の軸の二つが混在している。人に物を取ってもらおうと頼むときなどは,「あなたの頭側にあるものを取って」というように相手の軸で物事を話す必要がある。宇宙は相対的な世界であり,考え方が自由になり価値観が変わる。上下関係に固執しなくなる。
 次に,土井先生の講演概要を紹介する。地球上は人類だけでなく,他の生物との運命共同体である。現在は,地球文明から宇宙文明へと変わる,人類の転換点である。地球上の問題は,貧困,飢餓,生物の保存,絶滅,不平等,などがある。リモートセンシングを利用した遠隔医療の活用がなされている。WHO会議では,宇宙ステーション用に開発された医療技術が発展途上国でも利用可能かどうかが議論され,携帯用の小さいバイタルのモニターや,飲み水の浄化システムへの応用が検討された。みんなでパートナーシップをとってやっていくことが大切である。日本は,望遠鏡,プラネタリウムを世界各地へ送っている。さらに人的派遣においても,宇宙活動へ貢献しているため,信頼は厚い。国際宇宙ステーションは2024年まで運用される予定であり,それまでに「きぼう」を有効利用していく必要がある。国際協力は心が通じることが大切。経済的なバックアップも必要だが,与えられている中でどこまでできるのかが大事。もし,科学技術を悪用するような者がいるとしたら,それは本当の科学技術の意義,怖さを理解していない。中途半端な教育では,そういったことがおこるので,最期まで見るといった徹底した教育が必要である。
 今回の,山崎先生の講演では,宇宙活動と関わるには,多方面からアプローチができ,たくさんの可能性があるのだということを学んだ。土井先生の講演では,国際協力は,心の問題で,通じ合うことが一番大切と言われていたのが印象的だった。当初,参加人数が心配されたが,東京慈恵医大の南沢教授の御高配,山崎先生自身のtwitterでの告知などにより66名(学生31名)の参加があり,盛況に終わることができた。
 今後も,地上での臨床研究,学会活動を通じて宇宙医学へ貢献していきたい。