宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 38, 2020

ニュースレター

4. 特別寄稿 (3)第61回大会に参加して

志村 冬華

大分大学 医学部医学科4年

 この度は,このような場に寄稿させて頂く機会を頂戴し,ありがとうございます。先日開催されました第61回日本宇宙環境医学会大会に参加した感想等を,医学生の立場からまた演者の立場から,少し書かせて頂きたいと思います。
 私が在籍しております,大分大学医学部では4年生のプログラムの一環として,学生各々が興味のある学内外の研究室に約2ヶ月配属され,研究のいろはを学ぶという期間が設けられています。私はその期間を利用し,大分大学の徳丸治先生のお力添えで,防衛医科大学校 防衛医学研究センターの立花正一先生のもとで閉鎖空間でのメンタルヘルス,そして有人惑星探査における宇宙飛行士の精神心理的課題について研究をさせて頂きました。
 そもそも私が宇宙医学を学んでみたいと思った理由は,純粋に宇宙が好き,宇宙飛行士が好き,これに尽きます。地上から400 km上空,キラリと音もなく現れて,グングンと視界を横切り,ふっと空の彼方に消えていくISSを眺めること,ソユーズの打ち上げ中継を見て,クルーの頭上のマスコット人形がふわりと宙に浮きだす瞬間を,固唾を飲んで見守ること。このような宇宙好き人間は必ずやるであろうことをしながら,無限に広がる宇宙に想いを馳せる一方,宇宙開発の世界はどこか自分には関われない世界,夢の世界,と思っていました。しかし,ある日その世界への扉は意外と身近に,自分の在籍する大学にあることが分かりました。大分大学医学部では宇宙医学の講義があり,JAXAのフライト・サージャンだった先生が講義され,宇宙飛行士選抜試験に大きく関わっていた先生が外部から講義に来られるらしい,と。宇宙の世界には,医学を通じてアプローチすることも出来るのか!
 「求めなさい。そうすれば,与えられる。探しなさい。そうすれば,見つかる。門をたたきなさい。そうすれば,開かれる。だれでも,求める者は受け,探す者は見つけ,門をたたく者には開かれる。」新約聖書の有名な一節ですが,私が人生のモットーにしている言葉です。見つけた門は壊れない程度に容赦なく叩きます。今回叩いた門は,あれよあれよと開いていき,大好きな宇宙と,最も興味ある医学分野である精神医学に関わるテーマにどっぷり浸かる生活が待っておりました。初めて立花先生と研究テーマの相談をした時に,先生から惑星探査,火星探査という壮大な言葉が自然に出てきたことへの驚きと興奮は,さらにこの学問に深く踏み込んでみたいという気持ちを起こさせました。研究を始めるにあたり,研究を何か形になるようなものにしたい,学会に発表したい,出来れば航空宇宙医学の専門家の集う学会に出したいと考え,それを目標に研究生活をスタートさせました。その結果,立花先生をはじめとする多くの先生方の丁寧なご指導のお陰で第61回大会にて「有人惑星探査における宇宙飛行士の精神心理学的課題と対策」というテーマで発表することが出来ました。
 学会という場は,新たな門を見つけて叩き,また自分の門が叩かれる場だと感じております。驚くような新しい研究の話が聞け,その時のトレンドを感じられる。フロアを見渡せば,その世界の第一人者の先生方と直接お話しが出来るチャンスが転がっている。今回の発表では質疑応答時間,またセッション終了後にフロアで直接お声かけ下さった方もいらっしゃり,大変有り難く感じました。この第61回大会で見つけられた新しい門が,かけがえのない人生のチャンスへの入り口だった,そのように思う日が来るのではないかと確信しております。第61回大会長である津久井一平先生を始め,立花先生,徳丸先生,お世話になった諸先生方に厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。