宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 35, 2020

ニュースレター

3. 各分科会だより (2)東北宇宙生命科学研究会『東北宇宙生命科学研究会(Tohoku Society for Space Sciences, TSSSあるいはT3S)の活動について』

吉岡 利忠

弘前学院大学学長, 聖マリアンナ医科大学客員教授, 青森県立保健大学名誉教授

 当時の福島県立医科大学第二生理学教室主任教授清水強先生が,東北宇宙生命科学シンポジウムを立ち上げでから20年以上の年月が経過した。現在,清水先生は医療法人登誠会諏訪マタニティークリニック附属清水宇宙生理学究所の所長として宇宙医学分野の研究を続けている。
 このシンポジウムの立ち上げたきっかけは,日本宇宙航空環境医学会の第3代理事長であった御手洗玄洋先生が,東北地方には学会員が少なく学会活性化のために宇宙基地医学研究会(MERSS)のような会ができないものであろうかという言葉に嘱望された経緯がある。清水先生は,福島県民や特に小・中学生に宇宙生命科学の面白さを普及するためにこの地でシンポジウムを始めたと言う。記念すべき第1回宇宙生命科学シンポジウムは,主として日本宇宙航空環境医学会員の医師や生理学者に対して開催され,さらに東北地域の生理学会委員,宇宙関連施設へ案内を出し多くの参加者を募った。このシンポジウムは1993(平成5)年10月に福島県立医科大学で日本生理学会第26回東北生理談話会のサテライトとして開催された。また,福島県立医科大学の医師をはじめ数人のスタッフが本学会に入会した。本シンポジウムでは,地上模擬実験の紹介(HDT,ヘッドダウンチルト実験),NASA・NIHニューロラブ実験,スペースシャトル内の動物実験,ISS(インターナショナルスペースステーション)建設計画などが紹介された。
 1994(平成6)年3月第2回目には本学会事務局も支援に福島を訪れ,御手洗玄洋,森滋夫,長岡俊治,須藤正道,清水強各先生らによって賑やかに開催された(杉妻会館)。第3回シンポジウムは1997(平成9年)11月に持たれたが,この時は第50回日本体力医学会大会(同年7月)が福島県立医科大学衛生学教室の田中正敏教授が大会長を務めたということもあり山崎將生教授,清水強教授および田中大会長とともに宇宙生命科学について熱く語り,参加者への啓発活動によって会員数の増加に貢献した。この回より本学会の分科会として開催されることになった。第4回シンポジウムは1999(平成11)年3月,第5回は2000(平成12)年1月に開催され,第7回までこの地で続けられた。
 さて,清水先生のかねてからの意向もあり,このシンポジウムの経緯・実績などを纏めようと考えていたところ,タイミングよく日本宇宙航空環境医学会の立花正一理事からニュースレターNo2への特別寄稿を依頼された。本シンポジウムの名称は,シンポジウムだけではなく特別講演,学術講演,研究発表,アップデートな情報など幅広いジャンルを公開しようということで,東北宇宙生命科学研究会という名称に変更した(2006(平成20)年6月本学会理事会承認)。現在の担当者は,所属地が青森県にあるということで第8回目から引き継ぐことになった。
 東北地方には,特に秋田県(能代市),宮城県(角田市),青森県には,宇宙・航空産業に関する施設・研究所や企業,地球環境科学に関する研究所・施設が数多く存在する。青森県上北郡六ケ所村にある公益法人環境科学技術研究所(Institute for Environmental Sciences;IES)では,閉鎖居住施設,いわゆるミニ地球といわれる研究施設が整備され閉鎖環境下および宇宙空間を模擬した環境における人体生理機能を含めた多くに研究成果があげられ国際会議の開催も経験している。実際,エコノートとされる被験者がミニ地球内で居住し栽培,ミニ地球内で収穫した食料を摂取しながら数週間滞在するという実験が行われた。まさしく,未来を考えた宇宙空間にあるスペースステーションをシミュレートしたものである。この研究には投稿者も参加し,現地のミニ地球内で活動するエコノートの毎日の健康状態をテレビ回線で結び管理した。また,低放射線炭素の生態系内への取り込みシミュレーションは物質循環社会に還元されるという研究も継続している。東北にある大学研究機関に関しては東北大学,秋田大学,弘前大学を始め,宇宙・航空・環境医学分野の研究が報告されている。
 これまでに14回の研究会を開催したが,詳細は学会誌に投稿予定である。直近の研究会としては,2015(H27)年11月19日,第61回日本宇宙航空環境医学会大会時に,環境科学技術研究所の小村潤一郎氏に「低線量率放射線の影響」と題して講演を行って頂いた。