宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 30, 2020

ニュースレター

5. 特別寄稿 (2)第60回大会に参加して

河野 史倫

大阪大学 医学系研究科

 第60回日本宇宙航空環境医学会大会が,平成26年11月28日〜29日の期間,御茶ノ水ソラシティ(東京)にて開催されました。大会全体を通じて,一般演題・シンポジウムともに,宇宙での長期滞在や月面・火星での有人ミッションを見通した研究が多く発表された印象を受けました。第60回大会では「宇宙医学の推進と普及」というテーマが掲げられ,今後の宇宙開発にどのような課題が残されているのか? その対処法は? そしてそれらの研究が一般医学分野においても重要な科学的意義を持たなければならないということを強く感じさせられました。
 我々,若手研究者においては,JAXA宇宙医学研究センターと第60回大会,宇宙航空環境医学若手の会の共同企画として,「国際宇宙探査時代を想定した若手からの研究企画の提案」というシンポジウムを開催させていただきました。事前の応募により審査を受けた8名の若手研究者からの研究提案がなされ,シンポジウム座長の岩崎賢一大会長ならびに講評者の向井千秋宇宙飛行士,古川聡宇宙飛行士に各テーマに対する講評をいただくというものでありました。「現在軌道上では行うことができない医療技術の開発」や「更なる長期間の宇宙滞在を目指した基礎ならびに応用医学研究の必要性」,「宇宙飛行によって引き起こされる新規病態へのアプローチ」,「低重力環境の影響検討の重要性」,さらには「宇宙旅行を汎用化するために何が求められるのか」などが提案されました。国際宇宙ステーション時代を向かえ,ヒトの宇宙滞在期間が飛躍的に伸びています。月面基地の建設や火星等への惑星間移動が予定されている今後の宇宙開発において,宇宙滞在期間が更に伸びることも確実であろうと考えられます。微小重力環境や宇宙放射線が人体へ及ぼす影響がどのように深刻化するのか? 効率的な解決策は? と言った問題が生じることは必至です。我々若手研究者は,このような次世代・次々世代の宇宙開発に目を向け,基礎科学的知見を蓄積していかなければならないと思いました。また,次世代の宇宙開発に向けた研究は,フィジカル面のみならず,精神医学においても必須です。まだまだ多くの研究領域において多くの研究者が宇宙医学研究に踏み入れる必要性を強く感じました。このシンポジウムでいただいた講評の中で,「プロの宇宙飛行士は,より遠く,より長期間,より多く飛行することを目指し,一般の人はそれに続き安全に地球を離れることができるように」という向井千秋宇宙飛行士のコメントが非常に印象的でした。我々の行う宇宙医学研究が,そのものは純粋に宇宙を目指すための科学であっても,結果として地球における生活・地球人としての生活を豊かにできるものであると確信することができました。
 第60回大会の中で,JAXA執行役・田中哲夫氏による「国際宇宙探査の方向性について」の特別講演も行われ,約10年後の月面基地建設や約20年後の有人火星探査に関して,JAXAもこれらを目指すロードマップを想定していることが説明されました。宇宙を目指す若手研究者にとって,もの凄くモチベーションになる大会であったと思います。