宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 28, 2020

ニュースレター

4. 各分科会だより (1)宇宙基地医学研究会

大島  博

宇宙航空研究開発機構

 平成26年度の宇宙基地医学研究会は,担当の立花・泉先生と協議の上,2014年11月29日御茶ノ水ソラシティで開催された第60回日本宇宙航空環境医学会大会(大会長岩崎賢一日本大学医学部教授)の中で,宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)田中哲夫執行役による特別講演「国際宇宙探査の方向性について」として実施した。田中氏の講演概要を紹介する。JAXAは,国際宇宙ステーション(以下ISS)に,宇宙実験棟「きぼう」や宇宙ステーション補給機「こうのとり」を供給し,これまでのべ5人の日本人宇宙飛行士が計728日間長期滞在した。各宇宙機関代表からなる国際宇宙探査協働グループはPost ISSを検討し,当面はISSや無人探査活動を行い,2020から30年代にラグランジェ点・月面・小惑星での探査を経て,火星に至る国際宇宙探査ロードマップを示した。2014年1月政府レベルの議論として国際宇宙探査フォーラム会合が米国で開催され,2020年代は宇宙探査の黎明期となることで主要国間のコンセンサスが形成され,米国は2024年までISS運用延長を表明した。下村文科大臣は,日本は国際宇宙探査に主体的に貢献すること,次回会合を日本が主催することを表明した。これらの状況を踏まえ,文科省はISS・国際宇宙探査小委員会を設置し,今後のISS参加のあり方や,国際宇宙探査の進め方等について審議を継続している。人類の活動領域拡大というフロンティアへの挑戦として位置づけられる国際宇宙探査は,イノベーション創出の機会でもある。宇宙探査に必要なキー技術に対して,日本は選択集中して取り組むことが重要である。月以遠への効率的輸送,より遠方・長期の有人宇宙飛行,重力天体での着陸・滞在・帰還技術が求められるなか,宇宙飛行士の命を守る宇宙医学や生命維持・居住環境技術は,日本が貢献すべき柱の一つである。究極の予防医学や省エネ省資源技術は,宇宙探査のみならず,日本の社会的課題解決や産業競争力強化にも貢献することが期待できる。