宇宙航空環境医学 Vol. 57, No. 2, 27, 2020

ニュースレター

3. 各委員会だより (2)認定医認定委員会

緒方 克彦

宇宙航空研究開発機構

 2004年に開始された宇宙航空医学認定医制度は設立後10年を迎え,これまで延べ170名以上の認定医が誕生し,各航空業界の産業医や航空身体検査指定医,JAXAや自衛隊におけるフライト・サージャン,南極観測隊隊員や国際線パイロットに至るまで,多岐に亘る分野で認定医が活躍しています。
 認定医講習会は毎年春季に3日間開催され,宇宙医学,航空生理学(航空基礎医学),臨床航空医学,航空患者搬送,ヒューマンエラーと事故の予防などを中心に,幅広く宇宙航空医学を履修できるように組まれています。宇宙航空医学というと非常に特殊な狭い分野と思われがちですが,宇宙医学・航空医学の他にも,災害医療や極地(南極)医学,更には医療事故等のリスクマネジメントに至るまで,幅広い分野が密接に連関して包含されていることを知ると,多くの受講者が意表を衝かれているようです。
 また例年秋に開催される年次大会期間中には,認定医として知っておきたい研究開発の紹介や日々の臨床医・産業医活動等において押さえておきたいトピックス等に焦点を当てて,認定医推奨セッションを開催しています。今年の大会では「宇宙精神心理学上の諸課題と対策」及び「一般に知られていない“酔い・めまい”」の2つのセッションを開催し,いずれも学会参加者の御意見・ご質疑の多い発表となりました。下記に学会抄録号から引用した両セッションの紹介文を要約して掲載します。
 【宇宙精神心理学上の諸課題と対策】 アメリカやロシアは近未来の有人探査の目標を火星や月に定め,またJAXAも一定の条件を満たせば月を目指すことを想定しています。そうした深宇宙の超長期滞在においては,果てしなく遠い閉鎖環境における親しい人々との別離,慣れ親しんだ社会からの疎隔,自由な通信の遅延・障害による制限,異文化間コミュニティに関わるストレスなど,宇宙医学の課題の中でも,放射線被ばく管理・防護や遠隔医療と並んで,精神心理学上の問題が大きくクローズアップされることとなりました。
 本セッションにおいては,多数者間医学運用パネルの中で制定された脱同調ガイドラインの紹介と,宇宙探査に向けた睡眠評価のための脳波計や覚醒度評価法の開発,閉鎖環境を用いたストレス評価に関わる研究に関する発表の後,宇宙医学運用への応用も夢ではないオレキシン受容体拮抗薬について筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構から御講演を頂きました。
 【一般に知られていない“酔い・めまい”】 “酔い・めまい”と言えば,宇宙酔いや乗り物酔い,空間識失調が定番ですが,今回はあえてそれを外し,その他の興味深いものを取り上げました。
 南極越冬隊活動の中で体験された酔い・めまいの御紹介に始まり,以前から何となく知られてはいたもののよくわからず,最近になり注目を浴びるようになってきた下船酔い,地震酔いの発表と続きます。下船酔いに関しては最新の神経メカニズムについて,地震酔いに関しては東日本大震災後の大規模アンケート調査に基づく考察が披露されています。更には,昔は存在しなかった3D映像による不快感,および寝具やメガネなどによる酔い・めまいについても発表がありました。いずれも技術やデザイン性の進歩により快適さや格好良さを目指したにもかかわらず,場合によっては思わぬ副作用を呈してしまうという例で,経験的に気づいてはいたことを,科学的・医学的見地から説明が成されました。
 これらの酔い・めまいや不快感は今後増加していくものと予想され,こうした知見からいち早くその実態を知り,予防や対策を立てていくことが重要です。また,少し角度を変えて考えてみると,宇宙酔いや乗り物酔い,空間識失調を研究する上でもヒントになりそうです。
 今年からJAXAが主体となり講習会を実施する予定ですが,内容を一新し宇宙医学や臨床航空医学を充実させて臨みたいと考えています。また例年講習会テキストとして用いてきた資料を,各講師の先生方に加筆して頂き,今年秋にも販売する予定です。ご興味ある先生方,宇宙航空医学認定医講習会や学会セッションに顔を出してみませんか。

<認定医認定委員会連絡先>
〒305-8505 茨城県つくば市千現2-1-1
JAXA筑波宇宙センター 宇宙飛行士健康管理グループ内
宇宙航空医学認定医認定委員会事務局(担当:川島)
E-mail:z-airmed@jaxa.jp
事務局担当:川島,神崎,相部
TEL:050-3362-4133 FAX:029-868-3966