宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 91, 2019

シンポジウム3

「民間宇宙旅行 その扉がまもなく開く」

浅川 恵司

株式会社 クラブツーリズム・スペースツアーズ 代表取締役社長

Countdown begins for the Commercial Space Travel

Keiji Asakawa

President of Club Tourism Space Tours Inc.

まもなく米国で始まろうとしている宇宙旅行について,ヴァージンギャラクティック社の宇宙旅行を中心にこれまでの経過から最新の状況までを紹介。他の有力なライバル企業の動きや来年から国際宇宙ステーションに民間人を観光目的で受け入れることを発表したNASAの動向,米国の宇宙港の開発状況など世界全体の動きにも触れ,開発が遅れがちに進んできた民間宇宙旅行について,いよいよその実現が近いことを示したい。又,新しい産業として宇宙旅行を拡大させていくためには,以下の5つの大きな課題を乗り越えなければならない点にも触れ問題提起をしたい。1. 宇宙船開発(ロケット開発などの技術的な発展)安全に旅客を宇宙空間に運び,再び地上に戻ってくる宇宙船開発とその運航実績がまず何より最重要。2. 宇宙旅行を支える法律 宇宙船運航のための公的許運航免許制度,損害賠償権の放棄やインフォームドコンセントなど産業を育てることを趣旨とした誘導法の整備。3. 継続的な開発を支える資本力 長期に渡る研究開発投資を乗り越えるためには資本力が何よりも必要。米国では億万長者のエンジェルマネーが新しいビジネスを生み出すためにバックアップしてきた。4. 宇宙港の整備 米国は現在12か所で宇宙港が連邦航空局FAAにより認定されており,民間宇宙事業の文字通りの基地になろうとしている。将来日本発の宇宙旅行を実現するためには我が国もこのような整備を行うことが将来の重要な課題となる。5. 宇宙医学 一般の人(特に高齢者や健康に不安がある方など)に対し,弾道宇宙飛行がどのような医学的な影響を」与えるかについては明確な実証データがまだほとんど存在しない。より多くの方が宇宙旅行を楽しむ時代を迎えるには,この面での研究成果が必要となることを痛感している。将来,航空運輸サービスは,「空」だけでなく「軌道上」さらには「月面ルート」にまでその領域を広げるものと予想されている。世界の航空2強企業であるボーイングやエアバスも宇宙カプセルや宇宙船開発を実際に進めようとしている。やがて人類は人口が100億人を超え,その活動や居住領域は宇宙にまで広がらざるを得ない状況になると言われている。沢山の一般人が宇宙空間を旅行する時代はSFの世界ではなく,少しずつ確実に近づいており,私たちはまさにその入口に立っているという認識を本講演で共有したい。