宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 89, 2019

シンポジウム3

宇宙医療ハッカソン 〜宇宙医学を未来へつなぐ〜

宮下 裕策

京都大学医学部医学科1回生

Space Medicine Hackathon ~Space Medicine to the Future ~

Yusaku Miyashita

Junior in Faculty of Medicine at Kyoto University

アポロ11号による月面着陸から半世紀。官民による有人宇宙開発が,今再び活発化している。人がいるところに医が生まれる必然性に伴い,宇宙医学はその中でも非常に注目を集めている。宇宙医学をとりまく研究開発のオープン化が進み,これまでよりもさらに広い範囲の知見を統合する取り組みが始まっている。また何十年,何百年という長いスパンで人間の宇宙進出に宇宙医学が資することを鑑みると,将来を見据えた人材育成は不可欠と思われる。その「育成」に於いて,中高生への教育は非常に重要である。この重要性に対する認識を具現化したイベントが,「宇宙医療ハッカソン」だ。このハッカソンは,『新世代の医療をつくる』『これまでの常識に囚われずに発想する』といったマインドセットを中高生が涵養することを目的に,Space Medicine Japan Youth Communityとinochi学生プロジェクトとのコラボレーションにより開催された。宇宙医療ハッカソンは,inochi学生プロジェクトで心臓突然死問題についての課題解決型のプログラムに参加している関西,関東の中高生約30名を対象に行われた。ハッカソン開催に際しては,人類の宇宙進出に必要な医療要素のうち,中高生でも取り組むことができ,かつこれまであまり取り組まれてこなかったテーマとして「軌道上手術」および「宇宙でのオーラルケア」を選定した。中高生は関西関東各所で,1日目にはそれぞれのテーマのスペシャリストによるレクチャーを拝聴し,その後,随時先生方にヒアリングをしつつ,それぞれのテーマにおける課題を発散,収束を行い,解決すべき課題を見定めた。2日目は,関西関東の中高生が大阪で合流し,1日目で抽出した課題に対する解決策に,アイデアスケッチやプロトタイピングを用いて,アプローチした。今回のハッカソンでは,中高生がイノベーションを生み出す起爆剤として,このような最先端のデザイン思考の手法を導入した。宇宙開発を扱うのはほとんど初めての中高生だが,ヒアリングで得た知識や自分の想像力を存分に活用してアイデアを創出してもらった。宇宙医療ハッカソンでは,JAXAの三丸先生や渋川医療センターの石北先生,JAMSSの神山先生,大阪大学ジャパンバイオデザインの八木先生,スタンフォード大学のファルザット先生,新潟大学消化器内科学分野の寺井先生,国立感染症研究所の泉福先生といった著名な先生方が登壇した。また,今回のハッカソンはコンペティションでもあり,中高生による課題解決案には順位がつけられた。本報告では,優勝チームの5人の中高生が,この場を借りてハッカソンで出した宇宙医療での課題解決構想を再度プレゼンする。