宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 86, 2019

シンポジウム2

荷重関連の感覚入力による歩行の神経筋調節

上林 清孝1,2,6,大島 惇史2,6,荒木 啓輔4,辻内 伸好3,4,6,大平 充宣5,6

1同志社大学スポーツ健康科学部 ・ 2研究科
3同志社大学理工学部 ・ 4研究科
5同志社大学研究開発推進機構
6同志社大学宇宙医科学研究センター

Neuromuscular control of human walking induced by load-related sensory input

Kiyotaka Kamibayashi1,2,6, Atsushi Oshima2,6, Keisuke Araki4, Nobutaka Tsujiuchi3,4,6, Yoshinobu Ohira5,6

1Faculty and 2Graduate School of Health and Sports Science, Doshisha University
3Faculty and 4Graduate School of Science and Engineering, Doshisha University
5Organization for Research Initiatives and Developmen, Doshisha Universityt
6Research Center for Space and Medical Sciences, Doshisha University

ヒトの二足歩行における筋活動を生み出す神経機構に関しては,大脳皮質の一次運動野や脳幹からの下行性の運動指令のみならず,股関節を主とした下肢関節位置や荷重に関連する感覚フィードバックが重要な役割を担うと示されている。これまでに,歩行機能障害者の歩行リハビリテーションに開発されたロボットを用いた実験で,ロボットアシストによる完全な受動的ステッピング条件にて,荷重関連の感覚入力が神経路の興奮性に及ぼす影響に関する研究を行った。受動ステッピング時に足裏がトレッドミルに接地する荷重条件とハーネスで被験者を完全に吊り上げることで足裏の接地が生じない無荷重条件の比較で,一次運動野から脊髄運動ニューロンへ投射する皮質脊髄路や皮膚神経刺激によって誘発される皮膚反射経路の興奮性が無荷重条件に比べて荷重条件で大きく修飾され,ステッピングサイクルの位相に依存して変化することを明らかにした。また,空気圧によって体重を免荷できる下半身陽圧トレッドミルを用いて,通常の体重条件から20%刻みに,20%体重条件まで体重を免荷させた状態でトレッドミル歩行(3.5 km/h)を行い,歩行動作や下肢筋活動の変化を検証した。その結果から,免荷量が増加することで立脚期の地面反力ピーク値は減少し,また遊脚期時間の延長が観察された。歩行時における足関節の可動域は40%および20%体重条件で,通常体重条件よりも底屈傾向となった。筋活動に関しては,大腿直筋,内側広筋,腓腹筋では体重免荷により活動量が減少した一方で,大腿二頭筋や前脛骨筋では体重免荷による変化はみられず,筋特異的な変化が観察された。これらの結果から体重が40%以下に免荷されることで下肢伸筋の活動に大きな変化が生じることが明らかとなり,火星や月に相当する重力環境では荷重関連の感覚情報の減弱が歩行時の神経筋活動に強い影響をもたらすものと予想される。