宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 85, 2019

シンポジウム2

ラットの身体運動と脳神経活動それぞれを増強する条件づけ訓練

櫻井 芳雄1,2,宋 基燦1

1同志社大学脳科学研究科
2同志社大学宇宙医科学研究センター

Training with conditioning to differentially enhance body movement and neuronal activity in the rat

Yoshio Sakurai1,2, Kichan Song1

1Graduate School of Brain Science, Doshisha University
2Research Center for Space and Medical Sciences, Doshisha University

無重力空間がもたらす抗重力筋の機能低下は,身体の運動機能を低下させる。そのため,低下した抗重力筋を回復させ運動機能を増強するため,様々な訓練法が考案され実施されている。しかしそのような身体運動機能の変化に伴う脳神経活動の変化については,まだよくわかっていない。身体運動は脳(主に運動野・大脳基底核・小脳)の神経活動により制御されているが,脳と身体は相互作用しているため,身体機能の変化は脳の神経活動にも変化をもたらすはずである。本研究は,そのような脳−身体の相互作用の解明を最終的な目標とする。現在は下記の3点について,ラットを用いた神経科学的実験により検討している。① 身体運動を増大させた場合,脳の神経細胞の活動はどのように変化するのか。② 脳の神経細胞の活動だけを増大させることは可能なのか。③ そのように神経細胞の活動を増大させた場合,それに伴い身体の運動機能も増強されるのか。今回は ① と ② について,これまで得られた下記の実験結果を報告する。・ラットのノーズポーク運動(小さな穴に鼻先を入れる運動)を報酬ペレットによりオペラント条件づけし増大させても,運動野や海馬の神経細胞の活動はほとんど変化しなかった。・それら同じ神経細胞の活動をオペラント条件づけすると(ニューラルオペラント条件づけ),発火頻度や同期発火が急速に増大した。・発火頻度の増大は報酬直前のバースト発火の増大であり,同期発火の増大は海馬でのみ生じた。・条件づけした神経細胞を記録している電極から約500ミクロン離れた電極から記録された神経細胞の活動は,発火頻度と同期発火共に全く変化しなかった。・ニューラルオペラント条件づけ中に身体運動はほとんど生じず,ラットは次第に動かなくなった。これらの結果に加え,現在構築している訓練と記録用の実験システムについても紹介する。