宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 84, 2019

シンポジウム2

脂肪由来間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化能に及ぼす微小重力および運動の影響

加藤 久詞1,3,前田 優希2,3,大澤 晴大2,3,大平 充宣3,4,井澤 鉄也1,2,3

1同志社大学スポーツ健康科学部 ・ 2研究科
3同志社大学宇宙医科学研究センター
4同志社大学研究開発推進機構

Effects of microgravity and exercise on adipogenesis in adipose-derived stem cells

Hisashi Kato1,3, Yuki Maeda2,3, Seita Osawa2,3, Yoshinobu Ohira3,4, Tetsuya Izawa1,2,3

1Faculty and 2Graduate School of Sports Science, Doshisha University
3Research Center for Space and Medical Sciences, Doshisha University
4Organization for Research Initiatives and Development, Doshisha University

宇宙ステーションなど宇宙環境への長期滞在は抗重力筋の萎縮や骨量の減少などの形態学的変化をはじめ,幹細胞の機能や分化能の異常といった細胞の質的変化まで全身に影響を及ぼすことがよく知られ,その要因のひとつは微小重力である。そんな微小重力による種々の身体変化に対抗するため,宇宙環境滞在中の宇宙飛行士は運動トレーニング(Ex)が義務付けられている。Exは微小重力環境暴露による抗重力筋の萎縮や骨量減少に効果的であるが,幹細胞への影響はほとんど未解明である。そこで我々は脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)に注目し,Exの影響を検討している。ADSCは,多分化能を有し,低侵襲かつ低コストで大量採取・培養が可能であるというユニークな特徴から細胞移植医療の有望な細胞ソースのひとつとして期待されている。我々はラットを対象にExが通常重力(1 G)環境下でのADSCの分化能を変化させることを報告(J Cell Physiol. 2018)しており,この結果はExの影響がADSCに保存される可能性を示唆している。また幹細胞の分化能制御には細胞骨格因子であるRhoキナーゼ(ROCK)が重要であり,近年微小重力によってこの因子が大きく変化することが報告され,微小重力による幹細胞の分化能変化の鍵因子となる可能性がある。本発表では,ADSCの脂肪細胞への分化能に及ぼす微小重力および運動の影響を紹介し,さらにROCKとの関連についても論じたい。