宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 83, 2019

シンポジウム2

長期有人宇宙探査のためのその場資源利用研究

後藤 琢也1,2,3

1同志社大学理工学部 ・ 2研究科
3同志社大学宇宙医科学研究センター

In situ utilization for long-term manned space mission

Takuya Goto1,2,3

1Faculty and 2Graduate School of Science and Engineering, Doshisha University
3Research Center for Space and Medical Sciences, Doshisha University

現在運用中の国際宇宙ステーション(ISS)が2024年で終了することを受け,深宇宙探査を目的として,新たに,The Lunar Orbital Platform-Gateway(LOP-G)がNASAからが提案され,具体的なスケジュールが提示されており,既に関連する各種ミッションがNASA,ESA,JAXAなどにより計画・実行されている。LOP-Gは,ISSに代わる宇宙開発の国際的な拠点として,宇宙空間における「居住場所」,「ロボットやローバーの格納場所」,「通信拠点」としての活用が期待されている。LOP-Gで培われる科学技術が,最終的には,月面基地や惑星居住などの長期有人宇宙開発に活用されることはもちろんのこと,地球環境保全,さらには,人類の健康・長寿など地上の人類の幸福に直接波及することも大きなミッションとして期待されている。特に,長期有人宇宙活動を支援する,地球からの支援を受けずに長期間作動する「生命維持装置」に関連する技術は,必要不可欠かつ喫緊の課題であるという認識が世界の宇宙開発者の共通認識であり,現在各国が検討を開始している。以上の背景をもとに,宇宙にある資源のみで(その場資源)長期有人宇宙活動を可能にする研究に取り組んでいる。本発表では,その場資源として,ヒトの呼気からのCO2をその場資源ととらえ,筆者らのグループで独自に,まず,溶融塩という反応場を用いれば水の電気分解と同程度の電解電圧でCO2が酸素と炭素に分解することが理論的には可能であることを示す。さらに,各種の溶融塩を電解質に用いることとで,実際に理論から導き出された結果に従いCO2を電気分解することで,CO2を炭素と酸素ガスに分離回収できることをビーカースケール実験で実証した結果について示す。さらに,月面において,CO2分解と同様の手法を用いて,月面に豊富に存在するその場資源としての月レゴリスから,有人活動に不可欠な酸素の分離回収について,検討した結果についても併せて報告を行う予定である。