宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 81, 2019

シンポジウム1

Space Camp at Biosphere 2での学び

橋本 亜美,佐藤 啓明,久保 朋美,平井 颯,宮下 裕策,山敷 庸亮,土井 隆雄,寺田 昌弘

京都大学宇宙総合学研究ユニット

Learning from Space Camp at Biosphere 2

Ami Hashimoto, Hiroaki Sato, Tomomi Kubo, Hayate Hirai, Yusaku Miyashita, Yosuke Yamashiki, Takao Doi, Masahiro Terada

Unit of Synergetic Studies for Space, Kyoto University

今回,火星移住を目標にした宇宙開発における研究結果を地球上の問題解決に還元することを目標として,Space Camp at Biosphere 2に応募し,採択された。火星で育つ作物が開発できれば,地球上の厳しい環境でも栽培でき,将来的には地球での食糧問題に役立つことができる。有人宇宙キャンプ中は,宇宙に関する講義だけでなく,Biosphere 2で行われている環境維持についての講義や,各々のBiomeでの実習が行われた。熱帯雨林のBiomeでは植物の生育に必要な風を起こす必要性,害虫の存在が生育に必要な理由,また実習を通して自然の熱帯雨林と比べてまっすぐには伸びない木々が存在することを観察した。海洋のBiomeでは海洋生物にとって,pHや溶存酸素といった水質管理の重要性,人工的な環境管理では環境条件が均一になり過ぎ実際の生態系を再現できないといった矛盾を観察した。砂漠のBiomeでは,砂質の異なる砂漠から土壌を集めて自然の砂漠環境を再現していたことが確認できた。この砂漠状態を維持するための空気中の水分量管理技術などを学習した。また,火星での砂嵐の影響を想定して,太陽光パネルを使い砂質土壌が太陽光発電にどのように影響を及ぼすのかを観察した。
今回,課題5「閉鎖環境下でのストレス影響」を担当した。有人宇宙キャンプ中は様々なタスクが与えられ,実際の宇宙飛行士訓練と同様にマルチタスクを行う環境下にあった。そのような環境下でストレスチェックを行い,自身の精神状態がどのように変化していくのかを視覚化した。ストレスチェックは,唾液中アミラーゼ濃度の測定,瞳孔開閉速度変化,その他メンタルテストを用いた。さらに,コンセプトマップという手法を用いて教育効果を評価した。事前オリエンテーションを含め日本人学生は3回,アメリカ人学生は2回,コンセプトマップを作成した。「有人宇宙活動」という中心テーマについて,関連するコンセプトをリンクさせながら書き出し,それらを比較することで個人の理解度を測ることが可能である。コンセプトマップ解析から,有人宇宙キャンプ後はリンクしている言葉の数が増加する,リンク語の数が増えるなどの傾向が見られ,参加者の理解が深まったと解釈できた。また,キャンプ終了後にアンケート調査も実施し,このキャンプへの参加が参加者に対しどのような意味を持っていたか,どのように参加者のキャリア形成に影響を与えたかを調査した。