宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 80, 2019

シンポジウム1

Space Camp at Biosphere 2 (SCB2) 〜火星上での宇宙放射線被曝シミュレーション〜

宮下 裕策,佐藤 啓明,橋本 亜美,久保 朋美,平井 颯,土井 隆雄,寺田 昌弘,山敷 庸亮

京都大学宇宙総合学研究ユニット

Space Camp at Biosphere 2 (SCB2)─The simulation of space radiation exposure on the Mars

Yusaku Miyashita, Hiroaki Sato, Ami Hashimoto, Tomomi Kubo, Hayate Hirai, Takao Doi, Masahiro Terada, Yosuke Yamashiki

Unit of Synergetic Studies for Space, Kyoto University

今回のSCB2では課題4「放射線影響」を担当した。高い宇宙放射線にさらされる火星滞在を想定し,今回の Space Camp中に自ら受けた放射線量をモニタリングすることで,実際の火星での滞在ではどれくらいの線量の宇宙放射線に被曝されるのかを評価した。評価方法としては,主にバックグランド放射線量(Biosphere 2での放射線マップ)と太陽風によって地球に到達する Solar Energetic Particle(SEP:太陽エネルギー粒子線),Galactic Cosmic Ray(GCR:銀河宇宙放射線)の3つの指標を用いた。
まず,バックグランドの放射線量については,各自,常に放射線測定器であるシンチレーション検出器を持ち歩き,Biosphere 2内で移動する度に,その場所の放射線量を検出器で測定し,バックグランド放射線として規定した。各参加者グループが測定したデータをもとに Biosphere 2の放射線マップを作成した。放射線マップを作成することで,放射性物質の分布や土壌等の放射化の程度を知ることができ,バックグランドの高い場所に行く際は事前に防護服を着るなどの対策を講じることが可能となる。
SEP については,Coronal mass ejection(CME:コロナ質量放出)が発生したことをシミュレーションし,ExoKyotoというアプリケーションを用いて,SEP の火星への到達時間や屋外やミーティングルーム, バイオームといった場所依存的な被爆量を計算した。今回のSpace CampではX22クラスの巨大フレアが研修期間中に発生し,CMEが火星に向かっているという想定をした。また,GCR のような遠方の銀河からくる恒常的な放射線については ,Biosphere 2の外(屋外)にいるときのみ被曝すると想定し,被曝量を算出した。 上記の3つの指標を用いて各個人の被曝した総放射線量を算出した結果,それぞれが被曝した総放射線量のほとんどが SEP によることが判明した。このことから火星で生活するにあたって,CME への対策が必要不可欠であることが示唆される。今回の火星での放射線被曝のシミュレーションはリアリティが高く,人類の火星移住での必要条件や問題点などを見据えることができた。火星移住にあたって最重要課題ともいえる放射線被曝をどうすれば解決できるかを宇宙医学的見地から議論していく必要がある。