宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 79, 2019

シンポジウム1

Space Camp at Biosphere 2が与えてくれたもの

佐藤 啓明,橋本 亜美,久保 朋美,平井 颯,宮下 裕策,寺田 昌弘,山敷 庸亮,土井 隆雄

京都大学宇宙総合学研究ユニット

The finding from Space Camp at Biosphere 2

Hiroaki Sato, Ami Hashimoto, Tomomi Kubo, Hayate Hirai, Yusaku Miyashita, Masahiro Terada, Yosuke Yamashiki, Takao Doi

Unit of Synergetic Studies for Space, Kyoto University

つい先日,初めて系外惑星を発見したミシェル・マイヨール博士がノーベル物理学賞を受賞した。系外惑星には生命が生存可能かという議論が続いており,実際に生命が生存している可能性のある惑星が発見されている。しかし,他惑星へ移住するのはまだまだ先の話である。一方,今回のSpace Camp at Biosphere 2 (SCB2) は火星での有人宇宙活動を想定した内容であり,将来の有人宇宙活動に繋がるものと考え,自分の今後の進路や将来設計に大きな影響を与えてくれることを期待し,応募した。また,アメリカ人学生とグループワークすることも,貴重な国際協力の経験となると考えた。このSCB2の最終的な目的として,火星の有人基地Biosphere 3(B3)の設計という課題が与えられた。SCB2前の事前オリエンテーションでは,過去にBiosphere 2で行われた閉鎖環境実験での経験報告や,火星の宇宙基地に関するNASAのコンテストを参考に,B3建設について調べた。それらの情報から,火星の玄武岩を材用に3Dプリンタを用いて建物を建てることや十分な農地を作ること,娯楽施設を作ることなどが必要であると考えた。SCB2で同じチームメートであったアメリカ人学生の専攻が物質工学であったことから,放射線を防ぐために炭化ホウ素を用いることなど建物に用いる物質を詳しく考察した。このように異なる分野を専攻している学生との交流を通し,新たな観点から物事を学ぶことができた。また,アクアポニックスという植物の栽培と魚の育成を同時に行う設備を見学しB3にも採用することが有益であると考えた。SCB2中はこれらの課題と並行し様々な演習を行い,自然を人工的に再現・維持する難しさを学習した。帰国後はSCB2での体験により,これまでとは違った観点から物事を考えることができるようになり,地球環境に対する理解が深まったと感じた。慣れない環境でハードスケジュールをこなす中,心技体の充実をより求めていかなければならないということを実感した。「技」とは,課題を解決するのに必要な知識や英語力のことである。特に英語で議論をする場面において自分の英語力の足りなさを痛感した。また,時差ぼけや短い睡眠時間,日本とは違った文化の中での生活といったストレスのかかる生活の中で良いパフォーマスを維持するための体力が「体」である。「心」は,ストレスのかかる環境を乗り切る精神力や文化や言語の違う人もいる中でグループワークを行う際の心構えのことである。SCB2での宇宙飛行士による講演を通じて,宇宙活動の第一線で活躍されている方々のお話を聞き,「心」の大切さに気づくことができた。今後,SCB2で学んだことを通じて,さらなる飛躍につなげたい。