宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 77, 2019

シンポジウム1

火星環境調査に基づく人類居住区の建設地選定

平井 颯,宮下 裕策,久保 朋美,橋本 亜美,佐藤 啓明,寺田 昌弘,山敷 庸亮,土井 隆雄

京都大学宇宙総合学研究ユニット

Selection for best place for the human settlement on Martian environment investigation

Hayate Hirai, Yusaku Miyashita, Tomomi Kubo, Ami Hashimoto, Hiroaki Sato, Masahiro Terada, Yosuke Yamashiki, Takao, Doi

Unit of Synergetic Studies for Space, Kyoto University

2019年8月に米国アリゾナ州にある準閉鎖生態系施設Biosphere 2において火星ミッションを模擬した有人宇宙キャンプ(Space Camp at Biosphere 2: SCB2)を実施した。今回のSCB2では火星で人類が生存することを想定し,火星にBiosphere 3(B3)を構築するということを目標とし,SCB2での体験学習を通じて具体的な構想を練った。地球からの物資補給を最小限にし,火星において持続可能な生活を送るためには,火星の資源を利用した循環型生活システムの構築が不可欠である。よって,火星表面でのB3建設地の選定においては,NASAやESAの研究結果をもとに水や建材として有用な玄武岩の分布,気候といった諸条件を考慮した。水は火星の極域や中緯度域に氷として比較的多く存在するが,低緯度域の砂にも水が含まれていると推定されている。水は生活用水として欠かせないものであると同時に,放射線を防ぐための防御手段としても有用であるため,水が分布している地域を選定することが重要である。火星の気温は極域で冬に−130℃程度まで低下する一方で,赤道付近で夏に20℃前後まで上昇すると報告されている。火星は平均表面温度が−63℃と寒冷な惑星であるため,居住区内を快適に保つための燃料消費を抑えるためには,より温暖な地域を建設地として選定することが有利である。加えて,気候条件として考慮しなければならない点は,突風を伴うダストストーム(砂嵐)である。この現象は中緯度域で発生頻度が高いとする研究結果が報告されているため,中緯度域は避けるのが望ましいと考えた。更に,岩石の分布も建設地選定の上で考慮した。耐食性・放射線耐性に優れた玄武岩は,繊維状に加工することで建材として用いることができる可能性がある。NASAの調査によると玄武岩は南半球に比較的豊富に存在するとされているほか,赤道付近にも分布がみられる。以上の条件を検討した結果,B3の建設地として赤道付近のメリディアニ平原(0.2N, 2.5W)を選定した。