宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 75, 2019

一般演題5

27. 後肢懸垂時に発生する糖化ストレスによるマウスヒラメ筋萎縮への影響

江川 達郎1,横川 拓海2,木戸 康平1,後藤 勝正3,林 達也1

1京都大学人間 ・ 環境学研究科
2立命館大学スポーツ科学研究科
3豊橋創造大学健康科学研究科

The effect of glycation stress on soleus muscle atrophy following hindlimb suspension in mice

Tatsuro Egawa1, Takumi Yokokawa2, Kohei Kido1, Katsumasa Goto3, Tatsuya Hayashi1

1Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University
2Graduate School of Sports and Health Science, Ritsumeikan University
3Graduate School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University

【背景】 糖化反応(glycation)および糖化反応生成物(advanced glycation end products:AGEs)に起因する生体ストレスである糖化ストレスは骨格筋の成長阻害や萎縮の進行に関与することが明らかになっている。しかし,廃用性筋萎縮進行との関係性はこれまでに検討されていない。そこで本研究では,後肢懸垂処置による廃用性筋萎縮に対する糖化ストレスの影響を明らかにする。
【方法】 雄性C57BL/6NCrマウス(11週齢)を1)通常飼育群(C, n=8),2)後肢懸垂群(HS, n=8),3)後肢懸垂+AGEs受容体阻害剤投与群(HS+FZ, n=8)に分け1週間飼育した。HS+FZ群は後肢懸垂期間中にFPS-ZM1(1 mg/kg/day)を1日1回,腹腔内投与した。飼育期間後,ヒラメ筋を摘出し解析に用いた。
【結果】 HS群ではC群と比較して血中の蛍光性AGEs量が有意に増加した。また,HS群ではAGEsの代表的物質であるNε-(Carboxymethyl)lysine(CML)とmethylglyoxal hydroimidazolone 1(MG-H1)の筋中への蓄積が認められた。これらのAGEsの生成を抑制する酵素であるglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase,glyoxalase 1,aldose reductaseのmRNA発現量およびAGEs分解酵素であるacylaminoacyl-peptide hydrolaseのmRNA発現量はHS群で有意に低下した。ヒラメ筋重量および遅筋型ミオシン重鎖の発現量はC群と比較してHS群で減少したが,HS+FZ群ではその減少が30%抑制された。また,筋中のmuscle-specific RING-finger 1およびtumor necrosis factor α mRNA発現量がHS群で有意に増加したが,HS+FZ群ではその増加が抑制された。
【結論】 後肢懸垂処置に伴う筋中へのAGEsの蓄積にはAGEsの生成を抑制する酵素および分解する酵素の発現低下が起因している可能性が示唆される。また,後肢懸垂処置による廃用性萎縮の進行には糖化ストレスが部分的に関与していることが示唆される。