宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 74, 2019

一般演題5

26. 骨格筋細胞可塑性発現におけるTRPV4と機械的刺激の受容

萩原 ありさ1,大野 善隆2,横山 真吾2,後藤 勝正1,2

1豊橋創造大学大学院健康科学研究科
2豊橋創造大学保健医療学部

A physiological role of mechanosensitive TRPV4 channel in skeletal muscle plasticity

Arisa Hagiwara1, Yoshitaka Ohno2, Shingo Yokoyama2, Katsumasa Goto1,2

1Graduate School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
2School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University

宇宙環境環境への曝露は,骨格筋を萎縮させることはよく知られている。この骨格筋萎縮は,骨格筋への荷重の減少によるものと考えられ,身体を支える抗重力筋であるヒラメ筋に顕著に認められる。しかし,骨格筋に対する荷重減少を検出する仕組みは明らかとなっていない。Ca2+透過性イオンチャネルであるtransient receptor potential vanilloid 4(TRPV4)は,温熱や浸透圧刺激をはじめ機械的刺激によっても活性化する。骨格筋細胞にTRPV4は発現し,遺伝子変異により特徴的な病態を示すことが知られている。しかし,骨格筋細胞の可塑性発現におけるTRPV4の生理作用には不明な点が多い。そこで本研究では,培養骨格筋モデルを用いて,筋管細胞の形態維持におけるTRPV4チャネルの生理的役割を追究した。実験には,マウス筋芽由来C2C12筋芽細胞を用いた。筋管細胞への分化を誘導後,異なる濃度のTRPV4アゴニストあるいはアンタゴニストを培地に添加し,TRPV4チャネルを活性化あるいは不活性化した。なお,対照群にはdimethyl sulfoxide(DMSO)を同量添加した。また,RNA干渉法によりTRPV4ノックダウンを行い,TRPV4ノックダウンが筋管形成に及ぼす影響を評価した。さらに,マウス骨格筋由来筋芽細胞から筋管細胞誘導後,伸展刺激(3%, 6%, 9%)を負荷し,筋管細胞へのCa2+流入をCa2+蛍光指示薬Fura-2AMを用いてライブイメージングを行った。アンタゴニスト添加では筋管形成が抑制され,筋総タンパク量も有意に減少した(p<0.05)。さらに,siRNAによるTRPV4ノックダウンは,C2C12筋管細胞への分化を部分的に抑制した。また,伸展刺激およびTRPV4チャネルアゴニストは,マウス骨格筋由来筋管細胞へのCa2+流入を促した。一方,TRPV4チャネルアンタゴニストは,ストレッチによる筋管細胞へのCa2+流入を抑制した。以上より,骨格筋細胞においてTRPV4チャネルは,機械的刺激受容Ca2+チャネルとして機能し,骨格筋細胞の可塑性発現に関与していることが示唆された。