宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 73, 2019

一般演題5

25. 骨格筋萎縮に対する核酸摂取がユビキチン依存性筋タンパク分解酵素発現に及ぼす効果

宅和 美穂,平林 卓己,田中 稔,前重 伯壮,藤野 英己

神戸大学大学院 保健学研究科リハビリテーション科学領域

Effects of nucleotides supplementation on muscle protein degradation in skeletal muscle atrophy

Miho Takuwa, Takumi Hirabayashi, Minoru Tanaka, Noriaki Maeshige, Hidemi Fujino

Department of Rehabilitation Science, Graduate School of Health Sciences, Kobe University

無重量環境への曝露や長期のベッドレストは骨格筋への機械的ストレスが低下し,タンパク質分解経路の亢進により筋萎縮を生じる。一方,サケ白子から抽出したプロタミン(タンパク質)と核酸の複合体であるヌクレオプロテインの摂取が萎縮筋の回復を促進する研究成果を得た。核酸は生体内で合成され細胞増殖に関与するが,疾病,低栄養や炎症などの生体へのストレスが高まる特定の状況下においては体外からの摂取が必要とされる。zまた,核酸の摂取により消化器で酸化ストレスの軽減や免疫能の増強効果が報告されている。これらの報告から核酸の摂取が筋萎縮を抑制する作用を持つ可能性が示唆される。そこで本研究では,荷重除去に伴う骨格筋萎縮に対する核酸摂取が筋タンパク分解酵素の発現に及ぼす効果を検証した。8週齢の雄性Wistarラット24匹を用い,対照群(Con),後肢荷重除去群(HU),後肢荷重除去+低濃度核酸摂取群(DNA1.0),後肢荷重除去+高濃度核酸摂取群(DNA2.5)に分類した。HU,DNA1.0及びDNA2.5に対し,後肢懸垂による筋萎縮を惹起させ,DNA1.0及びDNA2.5には各々1.0%,2.5%のサケ白子より抽出した核酸含有飼料を摂取させた。14日間の後肢懸垂でヒラメ筋重量はConと比較し,HU,DNA1.0及びDNA2.5では有意に減少したが,高濃度核酸を摂取したDNA2.5ではHU,DNA1.0と比較し有意に高値を示した。筋線維横断面積でも同様にConと比較し,HU,DNA1.0,DNA2.5で有意に減少したが,DNA2.5はHUと比較し有意に高値を示した。また,筋タンパク分解に関与する筋特異的ユビキチンリガーゼatrogin-1の発現レベルはConと比較し,HUで有意に増加したが,DNA1.0及びDNA2.5とCon間に統計学的有意差は認められなかった。これらの結果から,核酸の経口摂取はユビキチン依存性筋タンパク分解酵素の発現を抑制し,筋萎縮を軽減する効果を有することが示唆された。