宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 72, 2019

一般演題5

24. 筋小胞体タンパク質サルコリピンは筋萎縮を促進する

谷端 淳,暮地本 宙己,南沢 享

東京慈恵医会医科大学 細胞生理学講座宇宙航空医学研究室

The sarcoplasmic reticulum protein sarcolipin promotes muscle atrophy

Tanihata Jun, Bochimoto Hiroki, Minamisawa Susumu

Division of Aerospace of Medicine, Department of Cell Physiology, The Jikei University School of Medicine

【目的】 骨格筋は自身の活動状態に応じ,環境に適した筋量を維持している。筋力トレーニング等の運動負荷やリハビリテーションにより筋重量は増し,逆に宇宙飛行,加齢性の筋萎縮(サルコペニア),寝たきりなどの筋の不動により筋重量は減少する。超高齢社会をむかえた本邦では不活動,サルコペニアに伴う筋萎縮を防ぎ,筋量を維持することが健康寿命延長のために重要な課題となっている。しかし,骨格筋の肥大・萎縮メカニズムへの細胞内カルシウム制御に関しては不明な点が多く残されている。我々の先行研究により,筋萎縮を誘導すると,筋小胞体Ca2+再取り込みを抑制する筋小胞体膜タンパク質・サルコリピン(SLN)の発現量が増加することがわかっている。しかし,SLNの発現増加に伴う細胞内Ca2+濃度増加と筋萎縮の関係は詳しくわかっていない。そこで,SLN遺伝子欠損 (KO)マウスに除神経による筋萎縮を誘導して,筋小胞体Ca2+再取り込みを促進することが筋萎縮を阻止するか否かを検証した。
【方法】 10週齢の野生型マウス (WT),SLN KOマウスに対し,坐骨神経切除により下肢筋の萎縮を誘導した。除神経をしないマウスを対照群とした。除神経2週間後に前脛骨筋 (TA)とヒラメ筋 (SOL)を摘出し,筋重量を測定後,凍結サンプルを作製した。各サンプルからRNAを抽出し,ミトコンドリアの形態・機能に関わる遺伝子発現量を求めた。また,免疫染色により筋線維タイプの変化を検討した。
【結果】 除神経によって,TA筋重量は WT・SLN KOともに有意に対照群に比して減少したが,SOL筋重量はWTのみ有意に減少した。また,一般的に廃用性萎縮や神経損傷による筋萎縮では筋線維は速筋化するが,SLN KOの筋線維タイプは除神経により遅筋化した。また,対照群WTのSOLに比して対照群SLN KOのSOLではミトコンドリアの融合に関与するmitofusin1, 2,抗酸化ストレスに関与するNrf2,ATF3,オートファジーに関与するLC3b,p62の発現は有意に低い一方で,ATF3は除神経によりWT SOLで発現が増加したがSLN KOのSOLではその増加は認められなかった。
【結論】 SLNの非存在下で筋萎縮誘導をすると,WTと比較して筋萎縮が抑制され,酸化ストレス関連因子の発現も抑制されていた。本結果から,宇宙飛行,老化,疾病による筋萎縮の抑制にはSLNの発現抑制し,筋小胞体内へのCa2+再取り込みを促進することが有効であることが示唆された。