宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 67, 2019

一般演題4

19. ラット過重力(加速)負荷モデルを用いた+5Gz, 2分負荷と血圧反応

丸山 聡1,藤田 真敬2,晝間 恵3,白石 安永2

1航空自衛隊 航空開発実験集団 航空医学実験隊 第2部
2防衛医科大学校  防衛医学研究センター異常環境衛生研究部門
3防衛医科大学校 生理学講座

Effects of blood pressure in rats with +5 Gz for 2 minutes

Satoshi Maruyama1, Masanori Fujita2, Megumi Tandai-Hiruma3, Yasunaga Shiraishi2

1Second Division, Aeromedical Laboratory, Air Development and Test Command, Japan Air Self-Defense Force
2Division of Environmental Medicine, National Defense Medical College Research Institute, National Defense Medical College, Japan
3Department of Physiology, National Defense Medical College, Japan

【背景と目的】 戦闘機の旋回時にパイロットは頭から足方向(+Gz)の過重力(加速度)を受ける。負荷が漸増する場合は,グレーアウト,ブラックアウト,意識消失の順に,急増する場合はいきなり意識消失となる。我々の研究室では,動物用過重力(加速度)負荷装置(トミー精工)を保有し,ラット過重力(加速度)負荷モデルを用いて,心機能や自律神経の視点で検討を行ってきた。近年,動物実験の指針の変遷から,従来のペントバルビタールやウレタンによる麻酔を変更し,過負荷に応じた循環指標の計測を行った。
【方法】 SDラット20匹(雄,12週齢,体重391±15 g,日本エスエルシー)を用いて,ケタミン(75 mg/kg)+キシラジン(10 mg/kg)の腹腔内麻酔を行った。麻酔導入後,右大腿動脈と右頸静脈にポリエチレンチューブ(PE50,日本BD)を留置し動脈圧と中心静脈圧の計測に供した。麻酔導入30分後に動物用過重力負荷装置を用い,+2, +3, +4, +5 Gz各2分の負荷を行った。圧力計測は血圧計測用生体アンプ(日本光電),生体信号測定システム(パワーラボ,バイオリサーチ)を用いた。
【結果と考察】 負荷の大きさに相関して,血圧(R2=0.98)及び中心静脈圧(R2=0.95)の低下を認めた。血圧と中心静脈圧の低下量の間にも相関を認めた(R2=0.89)。中心静脈圧は静脈還流量を反映するため,動脈圧の低下は静脈還流量の低下に起因すると考えている。+2 Gz負荷では,負荷直後の血圧は初期値−63±6 mmHgとなり,負荷終了直前には初期値−35±13 mmHgとなった。負荷中28±14 mmHgの回復を認めた。この現象は+3, +4, +5 Gzでは見られず,+2 Gz負荷では血圧低下に対する調節機構が働いているものと考えた。+3, +4, +5 Gzの負荷においてこの調節機構が働かなかった理由は不明である。+2, +3, +4 Gz過重力負荷終了60秒後,低下した血圧は初期値より各37, 26, 36 mmHg高値に回復した。+5 Gの過重力負荷終了60秒後には,初期値−8 mmHgまでにしか回復しなかった。回復に要する時間は負荷重力が高いほど遅れる傾向にあった。
【結論】 ラット過重力負荷モデルにおいて,循環指標の計測系を確立した。+2 Gz,2分の過重力負荷では,負荷中の血圧の回復を認めた。+2, +3, +4 Gz各2分の負荷終了60秒後には,血圧は初期値より高値に回復したが,+5 Gz,2分の過重力負荷では初期値まで回復しなかった。回復傾向は負荷した重力が高いほど遅れる傾向が見られた。過重力負荷は,負荷の大きさにより血圧調節機構へ与える影響が異なることが示唆された。
(本研究は 防衛医科大学校 動物実験倫理委員会の承認(承認番号17088)により行った。)