宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 66, 2019

一般演題4

18. マウス胃組織への微小重力環境の影響に対する組織学的解析

暮地本 宙己1,2,3,近藤 大輔4,谷端 淳1,韓圭 鎬3,福島 道広3,南沢 享1

1東京慈恵会医科大学 細胞生理学講座 宇宙航空医学研究室
2帯広畜産大学 原虫病研究センター
3栄養生化学研究室
4獣医解剖学研究室

The effect of microgravity environment on histological characteristics of the stomach tissue of mouse

Hiroki Bochimoto1,2,3, Daisuke Kondoh4, Jun Tanihata1, Kyu-Ho Han3, Michihiro Fukushima3, Susumu Minamisawa1

1Division of Aerospace Medicine, Department of Cell Physiology, The Jikei University School of Medicine
2National Research Center for Protozoan Diseases
3Nutritional Biochemistry Laboratory
4Laboratory of Veterinary Anatomy, Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine

【背景】 栄養吸収障害は宇宙環境滞在中に生じる身体変化として,長期宇宙環境滞在における克服すべき課題である。その原因として,消化管に生じる消化機能低下や排出遅延・蠕動障害など,加齢性変化との類似点が想定されている。しかし,宇宙環境滞在が消化管にどのような組織学的変化を及ぼすのか,まだ詳細には検討されていない。そこで本研究では,生体の主要な消化管の一つである胃の,主たる消化機能を担う固有胃腺部を解析対象とし,宇宙環境滞在後のマウスの胃に生じる組織学的変化を検討した。
【方法】 2018年度マウスサンプルシェアテーマ課題採択による共同研究契約に基づき,JAXAより宇宙滞在モデルマウスの胃組織試料の提供を受けた。① Micro G(微小重力)群,② 人工1G(宇宙にて遠心飼育)群,③ 地上1G(地上対照)群,の3群(各6個体)を比較検討した。Micro G群マウス,人工1G群胃組織は,国際宇宙ステーションに35日間滞在後に地上へ帰還した後,摘出された試料を用いた。4% paraformaldehyde固定後,100%メタノール置換されて−30℃で保存されていた各胃組織試料を,0.1 M リン酸緩衝液に置換し,パラフィンに包埋した。4μm厚の胃組織切片にH-E染色を行い,光学顕微鏡を用いて固有胃腺部の明視野観察を行った。
【結果】 1)低倍観察では,地上1G群および人工1G群と比較して,Micro G群の固有胃腺の配列がわずかに乱れる傾向が見られ,微小重力が固有胃腺部の配列に影響を与える可能性が示された。2)高倍観察において,地上1G群および人工1G群と比較してMicro G群では壁細胞の核0K小型化する傾向が見られた。さらに,人工1G群と比較してMicro G 群では壁細胞1個当たりの断面積が有意に小さいことが明らかとなった。
【考察】 本研究結果から,重力は固有胃腺の構成細胞の配向性に影響を与えており,微小重力条件下のマウス固有胃腺部では,特に壁細胞の細胞質容積が減少することから,胃酸分泌機能の変化が示唆された。また,壁細胞の核の小型化は,加齢性に生じる胃壁細胞のクロマチン減少との類似性が認められた。今後は透過および走査電顕を用いた細胞内微細構造の詳細解析や,壁細胞の機能に関わる機能分子に対する発現解析,老齢マウス胃との形態学的比較解析を実施することを計画している。