宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 53, 2019

一般演題1

5. パイロット訓練生からみた乗員育成と医学教育

石川 真祈

崇城大学工学部宇宙航空システム工学科

Pilots training and their medical education;a student view

Maki Ishikawa

Department of Mechanical Engineering, Faculty of Engineering, Sojou University

日本の航空機操縦士数は6,000人程度であるが,年齢構成は均等ではありません。その多くは40歳代に集中しているため,あと20年で多くの乗員が定年を迎えることが予想されます。定年による引退者の補充には,毎年300人以上の新規乗員が必要とされます。そして日本の航空機数が増加して,乗員需要が増大すれば,さらに多くの新規乗員の補充が必要です。これまでは航空会社の自社養成に加えて,航空大学校卒業生が乗員補充の主体でした。しかし,これでは十分と考えられません。そこで国土交通省の要請もあり,私立大学を中心としたパイロット育成の学科の開設が相次ぎました。2006年の東海大学での工学部航空宇宙学科に航空操縦学専攻が設置されたのをはじめとして,2008年には,崇城大学,桜美林大学,法政大学にパイロット育成の学科が新設され,現在では,工学院大学,千葉科学大学など,多くの大学に設置されています。しかしながら各大学の定員は10-50名程度であり,必ずしも全員が卒業できるわけではなく,大学の卒業生がすべて操縦士となっても必ずしも十分ではありません。そのため,航空大学校では定員を108名に増やす等の対策をとっていますが,まだ足りないのが現状です。パイロット育成の学科では,4年間の在学中に,航空通信士,自家用操縦士,事業用操縦士,計器飛行証明などのたくさんの国家資格を取得しなくてはなりません。これらの国家資格は口述試験と実地試験があり,試験官と1対1で行われ,訓練生には大変大きな負担となっています。実技訓練も必須であり,たとえば崇城大学では自家用操縦士技能証明には約85時間,事業用ではさらに約135時間のフライト実習が必要となります。座学においても,法規や気象,航空機システムや操縦工学など広範囲に及ぶ知識の取得が必要です。このため学習は早朝から夜遅くに及ぶことも多いです。医学的な知識の取得も不可欠であり,急激な気圧変化によっておこる生理学的な反応,加速度にさらされたときの生体変化,回転や旋回などを受けた場合の錯覚を含めた生理反応などの医学学習が必要です。一般に民間の航空機が飛行するのは高度1万メートルを超えるため,通常の大気圧条件とは異なる医学的な反応を理解する必要があります。航空機の運航において,最も重要なのは安全であり,航空乗員だけでなく乗客の安全性を優先しなくてはなりません。乗客の安全を確保しながら,決められた目標地点まで,迅速に,そして正確に航空機を操縦することが要求されています。近年急速に変化しているパイロット育成の現状について知っていただくことで,航空医学の発展に期待し,またより安全なパイロットを育成するための知識等のご指導をいただきたいです。