4.　航空自衛隊における空間識訓練に対する取り組み | The Optimization Process of JASDF Spacial Disorientation Training

一般演題4

4.　航空自衛隊における空間識訓練に対する取り組み

峰　政貴¹，丹羽　祐太¹，堀内　有加¹，山口　大介²，加藤　圭²，桒田　成雄¹

¹航空自衛隊　航空医学実験隊
²航空自衛隊　航空幕僚監部

The Optimization Process of JASDF Spacial Disorientation Training

Masataka Mine¹, Yuta Niwa¹, Yuka Horiuchi¹, Daisuke Yamaguchi², Kei Kato², Naruo Kuwada¹

¹Japan Air Self Defense Force, Aeromedical Laboratory
²Japan Air Self Defense Force, Air Staff Office

空間識とは，空間における自己の位置，方向，姿勢，傾き，動きなどの認識であり，空間識失調（Spacial Disorientation: SD）とは，空間識が誤って認識される状態である。航空環境におけるSDは，航空機に対する自身の感覚的姿勢と実際の計器による姿勢が一致しない状態と表現されることがある。また，様々な航空環境が視覚，前庭感覚および体性感覚に単独もしくは複合的に影響を与え，引き起こされる状態であり，SDは身体機能が正常であっても起こりうるものである。実際に，2019年4月の航空自衛隊三沢基地所属のF-35A（固定翼機）墜落事故に関して報道されている資料では，SDが原因であったことが推定されている。その他にも，近年では，2015年海上自衛隊鹿屋基地所属のOH-6DA（回転翼機）および2017年10月の航空自衛隊浜松基地のUH-60J （回転翼機）などの墜落事故の原因としてSDが挙げられており，2018年8月の群馬県防災航空隊のベル式412EP型（回転翼機）においてもSDの関与が否定はできていない状況である。このようにSDは，航空機の機種および官民を問わず，航空事故の要因として重要な状態である。これまで防衛省自衛隊，特に航空自衛隊では，この空間識失調への対策として，操縦士育成の過程において，飛行準備課程学生（操縦士候補生）に対し，航空医学実験隊が有する空間識訓練装置（GL-4000, Environmental Tectonics Corporation, USA）を用いた訓練（以下「空間識訓練」という）を通じた認知教育を原則1度のみ行い，全操縦士に対し，約5年毎に他の低圧低酸素や加速度などの航空生理学と併せてSDに対する座学による知識教育を行ってきた。しかし，昨今の航空大事故の影響等により，空間識訓練の重要性が再認識され，従来の訓練の内容および実施要領（頻度や時期などを含む）について検討が必要な状況である。これは，諸外国の動向などを参考に，定期的またはある基準の元，再訓練を行うことにより航空安全に寄与できる可能性が示唆されていることも関連している。今回，航空自衛隊における空間識に関する再訓練の必要性および在り方の検討を行い，試行的に実際の航空環境での経験が豊富な操縦士に対し再訓練の提供を行った。今回，航空自衛隊での空間識訓練の課題などについて，諸外国の動向との比較と併せて紹介する。