宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 4, 51, 2019

一般演題1

3. 米国航空身体検査医資格の登録と課題

石川 義弘

横浜市立大学大学院医学研究科 循環制御医学

How to become an Aviation Medical Examiner in USA?

Yoshihiro ISHIKAWA

Cardiovascular Research Institute Yokohama City University School of Medicine

アメリカ連邦航空局には2,800名弱のAME(Aviation Medical Examiner)と呼ばれる航空身体検査医が登録されており,アメリカ国内はもちろん,アメリカ軍や欧州など世界中に分布している。このAMEが,年間に23万件の第一種(エアライン),6万件の第二種(商用),7万件の第三種(自家用)の航空身体検査を担当する。検査医資格の申請にあたっては,まずは書類審査がウエブで行われる。医師免許や専門医資格はもちろん,政府からの犯罪歴証明も必要である。日本人が申請する場合には,日本の航空身体検査医免許が有用である。書面審査に通ると,航空生理学および航空疾患学に関する電子ラーニング受講を指示され,受講後の試験に合格する必要がある,合格するとオクラホマでの連邦航空局主催のセミナー受講を指定される。本セミナーは質が高く,かつ実用的な内容であり,数十名の受講者と共に和気あいあいとすすむ。受講後の試験に再度合格すると,AMEとして認定され,登録番号が送付される。資格維持には3年毎のセミナー受講が必要である。米国航空局では,乗員身体検査は,乗員からの申請,検査医による検査結果の発行など,全て電子化されている。乗員はMedXpressと呼ばれる電子申請を行い,検査医はこの内容をもとにAMCS(Aerospace Medical Certification Subsystem)を通じて,連邦航空局に審査結果を提出する。これはアメリカの一般医療の現場に即したものではあるが,広大な地域に分散する膨大な数の身体検査を,円滑に進めるのに有用である。AMEに対しては詳細なマニュアルが用意されており,NavAidsと呼ばれる問診や診察方法のマニュアルや,FAQ形式で説明されているNavAidsの使用案内もある。さらには判断に迷った際のマニュアルとして,CACI(Conditions AMEs Can Issue)マニュアルが用意されている。これは様々ながんや,内分泌や心疾患の際に,ワークシートに沿って判断することにより,航空局に相談することなく,AMEが自ら身体検査認定を出せることになっている。例えば,アメリカ人に多く見られる大腸がんの場合でも,遠隔転移の有無や,大腸内視鏡での切除,危険因子の有無など,いくつかの項目についてガイドラインが示されており,認定できるか,航空局判断とすべきかが明確にされている。これも膨大な数の審査を円滑に行うための制度と考えられる。国情が異なるため,我が国の制度との単純な比較は困難であるが,航空身体検査の国際比較の観点からも,AME取得を考慮してよいのではと思われる。