宇宙航空環境医学 Vol. 56, No. 1, 5, 2019

開催報告

宇宙での物質循環型植物栽培システム

北宅 善昭

大阪府立大学

 長期間宇宙に滞在する場合,人間の生存に不可欠な食料の生産,空気や水の浄化,物質リサイクルなどを閉鎖環境下で行なう閉鎖生態系生命維持システム(CELSS)が必要となる。CELSSでは基本的に,人間の呼吸により排出されるCO2は植物の光合成で吸収され,その時に発生するO2が呼吸に利用される。また排泄物や植物の非可食部分は,酸化されて水とCO2およびその他の無機物に変換されるので,その酸化に必要なO2の供給および発生するCO2の吸収も植物の光合成が担える。さらにヒトに有害な微量ガスや不快臭気の吸収,除去も植物に依存できる。また飲用水には,栽培植物からの蒸散水を凝縮して用いる。さらに,強度の肉体的・精神的ストレスに曝される宇宙飛行士が,生鮮野菜を摂取し,生きた植物と接触することは,ストレス緩和に有効である。したがってCELSSでは,食料生産機能に加えて,ガス処理,水処理,アメニティ機能などを併せ持つ多機能型植物栽培システムの構築が重要となる。栽培作物としては,イネ,コムギ,ダイズ,サツマイモ,ジャガイモ,ピーナッツ,レタス,ニンジン,トマトなどが候補となっているが,ここでは,食料生産や物質循環の観点から優位なサツマイモ栽培を中心に,CELSS構築の技術的課題について概説した。