宇宙航空環境医学 Vol. 55, No. 1-4, 19, 2018

教育講演

1. 国際宇宙ステーションにおける動物実験とその枠組み

泉 龍太郎1,2, 芝   大2, 鈴木 智子2, 柚木  梢2, 加藤 充康2, 白川 正輝2, 上垣内茂樹2, 小久保年章2,3, 小川 志保2

1日本大学
2JAXA きぼう利用センター
3量研機構 放射線医学総合研究所

Status and Framework of Animal Experiments on International Space Station

Ryutaro Izumi1,2, Dai Shiba2, Tomoko Suzuki2, Kozue Yunoki2, Mitsuyasu Kato2, Masaki Shirakawa2, Shigeki Kamigaichi2, Toshiaki Kokubo2,3, Shiho Ogawa2

1Nihon University
2Japan Aerospace Exploration Agency(JAXA)
3National Institute of Radiological Sciences

国際宇宙ステーション(International Space Station;「ISS」)のきぼうモジュールを用いた,日本の動物実験の取り組みについて,その枠組みを含めて紹介した。ISSの科学的利用,及び人類の長期宇宙滞在に向けた,宇宙環境が人体に及ぼす影響の解明とその対策の検討のためには,宇宙における動物実験が必要不可欠である。日本のISS利用に向けては,生命科学や宇宙医学等の各分野で,利用シナリオを作成し,それに基づき,実験装置の開発が行われた。現在は「きぼう利用戦略(第2版)アジェンダ2020」に基づいて,テーマの選定や研究活動が行われている。きぼう利用に関しては,2012年より水棲生物実験装置を用いた,小型魚類の長期飼育実験を行い,2016年からは小動物飼育装置(MHU)を用いた,マウスの長期飼育実験を行っている。特にMHUでは,軌道上での1Gコントロール飼育と個別飼育が可能で,この点が本装置の最大の特徴であり,既にこれまでに3回の飼育実験を成功させている。本装置は今後,搭載エリアの追加や装置の大型化等の技術開発も検討されている。これ以外にも,動物個体ではなく,生殖細胞やES細胞を宇宙環境に長期間静置し,地上帰還後に,それらの細胞の子孫を用いて,宇宙環境の影響を調べるという実験もいくつか行われている。このような宇宙実験の実施に当たっては,地上対照実験,装置の開発・検証,宇宙実験の準備,模擬微小重力実験等で,多くの動物実験が必要とされている。これらの動物実験では,その装置の利用を含め,日本のみならず,関連する国・機関の動物実験実施に関する規則に適合していることが求められる。また,宇宙環境での動物個体の飼育に際しては,獣医師等の専門家が,常時,その状態をモニタリング可能な体制を取っている。このような動物実験の実施は,一朝一夕で実現したものではなく,過去のサンプルシェア実験(STS-107を含む)や,日本が開発を担当したセントリフュージ等の経緯を踏まえたものである。ただ,世間では,宇宙に限らず,動物実験そのものに反対する考え方があり,そのための手段を正当化するグループも存在する。JAXAは今後も,「きぼう」を用いた科学研究を推進し,健康長寿社会の形成など,地上社会への貢献を図ることを目的の一つとするが,宇宙での動物実験の実施に当たっては,動物の使用に好意的でない考え方への対応にも配慮を要する。