宇宙航空環境医学 Vol. 55, No. 1-4, 16, 2018

一般演題

10.　宇宙旅行者に必要な身体検査

藤本　耕司¹， 藤田　真敬²， 徳丸　　治³， 朴　　智薫¹

¹大分大学　医学部　医学科
²防衛医科大学校　防衛医学研究センター　異常環境衛生研究部門
³大分大学　福祉健康科学部　生理学講座

Medical examination for Commercial Space Traveler

Koji Fujimoto¹, Masanori Fujita², Osamu Tokumaru³, Ji Hoon Park¹

¹Medical Student, School of Medicine, Oita University Faculty of Medicine
²Division of Environmental Medicine, National Defense Medical College Research Institute, National Defense Medical College
³Department of Physiology, Faculty of Welfare and Health Sciences, Oita University

【背景と目的】　米国Virgin Galactic社やRocketShip Tours社等が，宇宙旅行を予定している。高度100kmまで上昇後，自由落下により無重力を数分間体験した後に地上へ帰還するもので弾道宇宙旅行と言われる。
　宇宙空間では船内の気圧変化，無重力，急激な加速が負荷され，医学的緊急事態に対する対応は難しい。医学的緊急事態の予防が重要であるが，宇宙旅行者に必要な身体検査基準について情報が普及していない。本調査では，宇宙旅行に必要な身体検査基準に関する総括を目的とした。
【方法】　医学中央雑誌，Medline，Yahoo!等のデータベースを用いて，弾道宇宙旅行（suborbital space flight），宇宙旅行（commercial space travel），身体検査（medical examination）等を検索語として文献，指針等を調査した。
【結果と考察】　搭乗員に必要な身体検査として，Grenon（BMJ,2012）や米国航空宇宙医学会（Aerospace Medical Association: AsMA）は米国航空局（Federal Aviation Administration: FAA） Class 2の身体検査を推奨している。両眼矯正視力1.0以上，2m離れて会話が可能，血圧 155/95 mmHg以下，薬物依存がないこと，15の不適応状態が規定されている。
　宇宙旅行者に必要な身体検査として，米国航空局とテキサス大学医学部（The University of Texas Medical Branch: UTMB）は宇宙旅行者の出発6ヶ月前に問診と身体検査を推奨している。耳鼻喉の炎症，喘息，精神疾患，めまい，閉所恐怖症の現病や既往を確認し，検査ではバイタルサイン（心音，血圧，呼吸，体温），上・下肢，頭頸部，眼などを診察するものである。有疾患者は医師に申告する。また，旅行中，旅行後の健康状態について，データ収集の必要性を説いている。Blue（ASEM 2012）らは弾道宇宙旅行の短い渡航時間から，有疾患者での良好な管理下で渡航可能と考察している。
【結論】　宇宙旅行者の身体検査案がいくつか提示されているが，実施に際しては具体化が必要である。
　一般人の宇宙旅行をより安全に普及させるため，宇宙旅行者の身体変化のデータ収集，宇宙旅行の身体検査に対応する医師養成も必要となる。