宇宙航空環境医学 Vol. 55, No. 1-4, 12, 2018

一般演題

6. 耐G性向上を目的とした筋力トレーニング法について

峰  政貴1,2

1航空自衛隊 航空医学実験隊
2防衛医科大学校 循環器内科

Strength training method to improve tolerance for G

Masataka Mine1,2

1Japan Air Self Defense Force Aeromedical Laboratory
2National Defense Medical College, Department of Cardiology

【背景】 航空機のG環境下における身体的な問題は,航空安全に多大な影響を与える。特に,Gによる意識消失(G induced Loss of Consciousness:G-LOC)の原因は多岐に渡り,対策は困難な場合がある。航空医学実験隊(医実隊)では航空機操縦者に対し,G耐性強化法及びG対処法についての訓練を実施している。G対処法の一つとして耐G動作(Anti G Straining Maneuver:AGSM)がある。AGSMとは,腹筋群及び下肢筋を緊張させることで静脈還流量を増やし,独特の呼吸法により胸腔内圧を上昇させることで,心拍出量を増大させ,脳への血流量を増加させる動作である。このAGSMを構成する動作の一部は,いきみ動作に類似している。2013年より,医実隊では,より効率的なAGSMの習得を目的とし,体幹の安定性向上のための深部筋の運動を意識したトレーニングであるドローイン(Draw in)と腹筋群全体の運動を意識したトレーニングであるブレーシング(Bracing)の要素を取り入れた訓練を提供している。しかし,AGSMにおけるこれらのトレーニング法の有用性についての既報の文献はない。
【目的】 遠心力発生装置を用いた高G環境下でのAGSMにおけるドローインとブレーシングの有用性を検証する。
【方法】 医実隊の遠心力発生装置搭乗記録を参照し,比較的G-LOCの報告がある訓練パターン2種類(パターンA (Gスーツ非作動,最大7Gを8秒間)およびパターンB (Gスーツ作動,最大8Gを15秒間))を選定した。ドローインとブレーシングの要素を取り入れた教育を導入した2013年を基準とし,その前後3年ずつ(2010〜2012年及び2014〜2016年)のGLOC発生率を比較し,短期的な教育効果の目安として比較する。
【結果】 導入前後のG-LOC発生率の変化は,パターンAでは35.6%から21.6%へ,パターンBでは27.9%から2.5%に低下した。
【考察】 AGSMトレーニングの際に,いきみ動作という動作全体を表す表現を用いた教育よりも,ドローイング後にブレーシングというように段階を分けた教育により,被教育者の理解度及び習得度が向上したためG-LOC率の低下に繋がった可能性がある。
【結語】 ドローインとブレーシングを採用したことにより,G-LOC発生の減少傾向を認めた。しかし,航空安全への寄与に関しては実機高G環境下等を含めた追跡調査が必要である。