宇宙航空環境医学 Vol. 55, No. 1-4, 11, 2018

一般演題

5. 血管内皮機能に及ぼす姿勢と気道内圧の影響

伊藤 康宏,近藤 悠斗,早田 圭佑,柴田 莉紗,伊藤 彩夏,中嶋 実咲

藤田医科大学医療科学部

Influence of posture and airway pressure on vascular endothelial function

Yasuhiro Ito, Yuto Kondo, Keisuke Hayata, Risa Shibata, Ayaka Ito, Misaki Nakashima

Fujita Health University, School of Health Sciences

【はじめに】 血管内皮機能の測定には臨床上,血流依存性血管拡張反応(flow mediated vasodilatation:FMD)が指標として使用されている。FMDは,血管内皮のずり応力(shear stress)によりeNOSから産生されたNOにより,血管が拡張する反応である。NOの受容体は可溶性グアニル酸シクラーゼ(soluble guanylate cyclase)であり,cGMPの産生を増大して血管拡張反応などを誘導する。FMDは多くの疾患や喫煙で低下するが体位(HDT),精神的ストレスなどでも低下し,体液シフトや血行動態だけでなく自律神経系との関りが示唆されている。
【方法】 FMDは安静時径に対する拡張時径の比を%FMDと表記する。対象者は男性20名(平均年齢21.6±0.8歳)であった。体位の比較は,6度頭部下げ(HDT)と頭部上げ(HUT),さらに,対象者の許容レベルのPEEP(positive end expiratory pressure)を使用した。また,HDT時にプラネタリウム投影を行い比較した。測定の標的部位は標準の上腕動脈とした。測定法は専用の測定装置(UNEX EF-18G)を用い,規定通り5分間の前腕部駆血を行った後開放し,約3分間の血管拡張反応を計測した。
【結果および考察】 %FMDはHUTでは13.3±3.1%であったが,HDTでは8.3±1.9%に低下(p<0.01)し,PEEPの使用により10.4±3.9%になった。また,プラネタリウム投影鑑賞により11.7±2.9%に増加(p<0.01)した。HDTでは上体への血流増加による血管の安静時径の増加が%FMDの低下の原因と考えられるが,血管径自体は自律神経平衡と血流再開後の最大径時間に相関が認められた。一方,PEEP圧と最大径時間に相関を認め,体位に関わらず血管内皮機能に影響を与えた。プラネタリウム鑑賞時は自律神経平衡と血管径および%FMDとの間の相関係数が高く(LF/HFとr=0.647),血管径の安定化が%FMDの増加に関係していると考えられた。大血管系を測定するFMDには自律神経系による直接的な作用は認められないが,外来刺激により自律神経系が血管径を緩徐に調節し血管のshear stressに対応している可能性が示された。