宇宙航空環境医学 Vol. 54, No. 4, 95, 2017

学生セッション

1. 災害時における避難所の指針と感染症予防に関する考察

永井 紗恵子1,藤田 真敬2,徳丸 治3,高田 邦夫2,南川 容子1,熊谷 純之介1

1大分大学 医学部 医学科
2防衛医科大学校 防衛医学研究センター 異常環境衛生研究部門
3大分大学 福祉健康科学部 生理学

Guidelines for Evacuation Center in Disaster and Prevention for Infectious Disease

Saeko Nagai1, Masanori Fujita2, Osamu Tokumaru3, Kunio Takada2, Yoko Minamikawa1, Junnosuke Kumatani1

1Medical Student, Department of Medicine, Oita University Faculty of Medicine, Japan
2Division of Environmental Medicine, National Defense Medical College Research Institute, National Defense Medical College, Japan
3Department of Physiology, Faculty of Welfare and Health Sciences, Oita University, Japan

【目 的】 平成28年4月14日に発生した熊本地震は記憶に新しい。災害時の避難所における最大死因は肺炎とされる。阪神・淡路大震災では災害関連死として922名の死亡が確認されており,そのうち最も多かったのは肺炎で223名(24%)にも上る。東日本大震災においても肺炎をはじめ,呼吸器疾患で31%の人が亡くなっている。避難所における感染症と各種指針について調査し,課題を見いだすことを本研究の目的とした。
 【方 法】 医学中央雑誌,Medline等の検索サイトを使用し,災害(disaster),避難所(evacuation center),感染(infection),指針(guideline)等の検索語を用いて国内外の文献等を調査した。
 【結果と考察】 国立感染症研究所感染症情報センターによると,避難所で多発する呼吸器感染症,急性下痢症は高齢者や小児で重症化しやすい。特に急性呼吸器感染症(RSウイルスなど),インフルエンザ,急性下痢症,麻疹,尿路感染症,破傷風に注意が必要とされる。
 米国疾病予防管理センターによれば,感染症予防には手指衛生や生活区域の清掃など個人への配慮が不可欠であり,過密環境や衛生管理不足は感染リスクを増大させる。
 避難所運営に関する国際指針には,国連難民高等弁務官事務所によるHandbook for Emergenciesと,国際赤十字・赤新月社によるThe Sphere Projectがある。これらの指針には,十分な居住スペースやプライバシーの確保,高齢者・小児・女性・障がい者といった弱者に配慮したトイレについて考慮されている。
 我が国では平成23年3月の東日本大震災における避難所の運営・管理について国際基準に準じた充実・強化が求められ,平成28年4月に避難所運営ガイドラインが改訂された。弱者への配慮や,女性や小児のニーズへの対応についても具体的に明文化されている。日本環境感染学会からは,大規模自然災害の被災地における感染制御マネージメントの手引きが示されている。しかし,これら避難所運営の指針の普及度は低く,全国の市町村における避難所運営マニュアルの作成は39%にとどまる。
 被災地では避難者に比してトイレが不足し,断水によりトイレ環境が劣悪になるケースが多く見られ,感染症蔓延の温床になりかねない。災害時でも使用できるトイレの確保と弱者が安心して使えるというトイレの質の向上が,避難所の感染症予防に直結すると考える。
 【結 論】 国内外の避難所に関する各種指針には感染症予防に寄与する内容を多く含み,特に弱者へ配慮した指針は感染症予防に非常に有効と思われる。避難所運営に関する指針の普及や災害現場における実践が今後の課題であろう。