宇宙航空環境医学 Vol. 54, No. 4, 94, 2017

一般演題 B

12. 耳石器めまい疾患と骨粗鬆症病態の関連性

山中 敏彰1,大山 寛毅1,伊藤 妙子1,松村 八千代1,村井 孝行1,北原 糺1,和田 佳郎1,2

1奈良県立医科大学附属病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科/めまいセンター
2和田耳鼻咽喉科

Otolith related dizziness and osteoporosis

Toshiaki Yamanaka1, Hiroki Ohyama1, Taeko Ito1, Yachiyo Sawai1, Takayuki Murai1, Yoshiro Wada2, Tadashi Kitahara1

1Department of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, Nara Medical University School of Medicine
2Wada ENT clinic

【緒言】 耳石器めまい疾患である良性発作性頭位めまい症(BPPV)は高齢女性に多いことから,その病因に閉経後の女性ホルモンの低下の関与が示唆されている。耳石の生成・吸収にカルシウムが主要な役割を果たしていることから,エストロゲン低下による骨粗鬆症をきたす全身的な骨・カルシウム代謝障害に伴って,耳石においてもカルシウム代謝の異常が生じている可能性が考えられる。そこで,今回,BPPV症例における骨密度を調査し,骨粗鬆症をきたす病態とBPPV発症の関連性について検討したので報告する。
 【対象と方法】 BPPVと診断した閉経後女性61例(50-88歳,64.1±7.69歳)を対象にした。長期ステロイド治療や骨粗鬆症治療歴,女性ホルモンに影響する内分泌疾患,骨・脊椎疾患を除外した。第2から第4腰椎の骨密度をDual energy X-ray absorptiometry (DXA)法を用いて測定した。Young Adult Mean(YAM)値を算出し,80%以上を正常,70%以上80%未満を骨量減少症,70%未満を骨粗鬆症と診断した。頭位理学療法後の1年間の追跡で再発があった症例のうち,1回のみの再発を単発例,2回以上の再発を多発例として分類し検討した。
 【結果】 %YAMは,BPPV全症例では80.2±14.4%で,その平均値は正常域下限であったが,再発例をみると72.4±10.4%と骨量減少症基準の低値を示した。さらに,多発する例では69.6±10.7%とさらに有意な低値を示して,骨粗鬆症の基準域に達した。BPPVの発症回数と骨密度(%YAM)との相関関係をみると,Pearsonの相関係数は−0.46で発症回数と骨密度の間に有意な負の相関性が認められ,発症回数すなわち再発は骨密度が低くなるほど多くなる傾向にあった。
 【考察】 本研究では,骨粗鬆症の合併をBPPVの約30%に認めたが,これは本邦の50歳以上女性の疫学調査報告の推定有病率とほぼ同頻度といえ,一般健康成人に比べて決して低い骨密度を示す結果は得られなかった。しかし,再発する例では,約70%の症例が骨量低下,約40%が骨粗鬆症を合併し,さらに再発を繰り返す多発例においては,より多く骨量低下を認めた。これらの結果より,BPPV自体に骨粗鬆症との関連性はなかったが,BPPVの再発する機転に骨量低下をきたす病態が大きく関係している可能性がある。
 骨粗鬆症をきたす症例においては,共通の病態としてカルシウム代謝不全があり,骨と同様にカルシウム不足の脆い耳石が生成された状態にあると考えられる。事実,ラットを用いた骨粗鬆症モデル実験でも,耳石は小型化し萎縮していることが証明されている。したがって,骨粗鬆症では,内耳においても耳石の萎縮・脆弱化,いわば耳石粗鬆症の病態がもたらされ,その結果,耳石が容易に剥脱されてBPPVが多発するものと推測される。
 今回の結果から,BPPVで骨粗鬆症を合併する場合には再発リスクの高いことが臨床的に予測され,今後は骨粗鬆症の治療によりBPPV発症の予防法に講じることも重要と思われる。